毎日のニュースを送り出すテレビや新聞などの報道機関は、政治家としての実績や政党・団体など組織的支援のある・なしで候補者が当落線上にいる・いないを判断し、それらのデータに基づいて、誰を主要候補として取り上げるか決めている。ここに入れば選挙活動の様子が連日、ニュースで扱われる時間が長くなり、ぜひとも加わりたいと考えるだろう。今回の都知事選では、現職の小池、華やかな経歴と発言でメディアの登場機会も多く知名度が高い蓮舫、2014年東京都知事選挙で4番目に票を集めた田母神俊雄・元航空幕僚長、そして4番目の主要候補として石丸を加えた。
4人を“主要”と位置づけたとはいえ、小池VS蓮舫に都知事選の報道が傾斜することは自然な話だった。石丸は市長経験があるので主要候補として扱われていたが、小池や蓮舫と比べると明らかに字数や時間は少なかった。2人の報道に飲み込まれて、石丸の戦いは視聴者、つまり有権者から話題にしてもらえない可能性が高かった。
しかし、石丸は安芸高田市長時代からYouTubeをはじめとする動画共有サイトで知名度を上げていた。そして選挙戦でもネットをフル活用して都民にも知名度を上げ、それが165万を超える得票につながったと言われている。
今回の石丸躍進はテレビ・新聞といったオールドメディアの終焉であり、ネットという新しいメディアが力を持った証拠だとする分析は少なくない。そうした指摘は的はずれではないが、実際に何度も現場へ足を運ぶと世間で言われているような状況とは異なる風景も見えてくる。
今回の都知事選に立候補した56名のうち、石丸はもっとも多く街頭演説をしている。石丸は朝に街頭演説のスケジュールをSNSで告知していたが、それだけ見ても毎日1日10回前後の演説を行っていたことが分かる。時には、予定外の場所で突発的に演説をすることもあった。その結果、たとえ短時間であっても、街頭演説の回数が多いことで、実際に会えた有権者数は増える。
今回の都知事選は投票率が60パーセントを超え、それなりに都民が強い関心を抱いていたと言える。しかし、一般的に大半の有権者は街頭演説を目的にわざわざ足を運ばない。街に買い物へ出かけたら、たまたま遭遇したから聴いてみたといったことはあるだろう。
筆者のように複数の候補者の街頭演説を聴き比べることはない。まして、連日にわたって街頭演説をハシゴするようなことはしない。
石丸が各所で多くの街頭演説を行うことで、偶然にも通りがかった有権者が石丸のことを知る。その作業を繰り返すことによって、都民にも石丸の顔と名前が少しずつ浸透する。そして、その有権者たちが写真をSNSにあげる。リアル(街頭演説)からネット(SNS)を繋げる図式で、石丸の話題は広がっていった。