芸能

高田文夫氏が綴る“メディア・もの書き”の師匠・永六輔さんとの思い出 弟子入り懇願するも「友達だったら」の返事に「なれるか!」

永六輔さんとの思い出(イラスト/佐野文二郎)

永六輔さんとの思い出(イラスト/佐野文二郎)

 放送作家、タレント、演芸評論家、そして立川流の「立川藤志楼」として高座にもあがる高田文夫氏が『週刊ポスト』で連載するエッセイ「笑刊ポスト」。今回は、高田氏の“もの書きの師匠”永六輔さんについて綴る。

 * * *
「落語」の師・立川談志の享年は75。私は6月で76歳になった。師を追い越してしまった。「メディア・もの書き」の師。永六輔は、享年83。7月7日、七夕の日が命日。2016年のことだから8年が経つのだ。

 生前直接きいたことがある。「“見上げてごらん夜の星を”なんて書いてるんですから、永さんは死んだら星になるつもりですか」「なりません! 僕は浅草の寺の子ですから、星になんかにならず 死んだら草葉の陰にいます」とピシャリ。

“草葉の陰”とは草の葉の下という意味から墓の下のこと。あの世。

 少し前に“私のお墓の前で泣くな”とか“そこに私はいません”とかいう歌が流行ったことがあったが(『千の風になって』)、あの頃知り合いの谷中の墓の石屋達が怒ってたのを想い出す(寺内貫太郎みたい)。「そこにいませんとか言われたら、こっちゃ商売あがったりなんだよ。いるんだよ。墓参りに人が来なくなったら、こっちが参っちゃうんだよ」。その通り。

 学生時代、私は永六輔からあらゆることを学んだ。「芸能」とは、「芸人」とは、「メディア」とは。『芸人 その世界』で「芸」の深さを知り『大往生』では死を見つめた。初めて書いた書きおろしが『芸人たちの芸能史』(昭和44年)。芸能の歴史をたどっていけば“ヤクザ”“女郎”“芸人”が“一身同体”であったことを学ばされる。

 私はどんどん大衆芸能にはまっていき「弟子入りさせて下さい」と手紙を書いた。「何でもやります。生まれたばかりの女の子のおむつも替えます」と必死。3日後すぐにハガキが来た。江戸っ子のやることは速い。「私は師匠無し、弟子無しでここまでやってきました。弟子を取るつもりはまったくありません。友達だったらなりましょう」。なれるか! あっちはすでに放送界の大御所、こっちはただの学生。

 それから10年。私は自力で世に出た。『ビートたけしのANN』『オレたちひょうきん族』。永さんの様に喋り手としても人気者となった。その時1枚のハガキが届いた。「今からでも遅くはありません。弟子になって下さい 永六輔」とあった。10年かけたシャレだった。

 このたび半世紀の時を越えてその『芸人たちの芸能史』が中公文庫で復刊。「帯は誰に?」と編集者が2人の娘にきくとすぐに口を揃えて「高田さん」と言ったとか。ていねいに手紙も来て「文庫化するにあたって初めて読んだんですが、本当に父は芸能史を勉強していて凄いんだと知りました」とありました。そうあの日おむつを替えようとした赤ちゃんが元フジテレビの永麻理である。

※週刊ポスト2024年8月2日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

交際が報じられた赤西仁と広瀬アリス
《赤西仁と広瀬アリスの海外デートを目撃》黒木メイサと5年間暮らした「ハワイ」で過ごす2人の“本気度”
NEWSポストセブン
世界選手権東京大会を観戦される佳子さまと悠仁さま(2025年9月16日、写真/時事通信フォト)
《世界陸上観戦でもご着用》佳子さま、お気に入りの水玉ワンピースの着回し術 青ジャケットとの合わせも定番
NEWSポストセブン
秋場所
「こんなことは初めてです…」秋場所の西花道に「溜席の着物美人」が登場! 薄手の着物になった理由は厳しい暑さと本人が明かす「汗が止まりませんでした」
NEWSポストセブン
身長145cmと小柄ながら圧倒的な存在感を放つ岸みゆ
【身長145cmのグラビアスター】#ババババンビ・岸みゆ「白黒プレゼントページでデビュー」から「ファースト写真集重版」までの成功物語
NEWSポストセブン
『徹子の部屋』に月そ出演した藤井風(右・Xより)
《急接近》黒柳徹子が歌手・藤井風を招待した“行きつけ高級イタリアン”「40年交際したフランス人ピアニストとの共通点」
NEWSポストセブン
和紙で作られたイヤリングをお召しに(2025年9月14日、撮影/JMPA)
《スカートは9万9000円》佳子さま、セットアップをバラした見事な“着回しコーデ” 2日連続で2000円台の地元産イヤリングもお召しに 
NEWSポストセブン
高校時代の青木被告(集合写真)
《長野立てこもり4人殺害事件初公判》「部屋に盗聴器が仕掛けられ、いつでも悪口が聞こえてくる……」被告が語っていた事件前の“妄想”と父親の“悔恨”
NEWSポストセブン
世界的アスリートを狙った強盗事件が相次いでいる(時事通信フォト)
《イチロー氏も自宅侵入被害、弓子夫人が危機一髪》妻の真美子さんを強盗から守りたい…「自宅で撮った写真」に見える大谷翔平の“徹底的な”SNS危機管理と自宅警備体制
NEWSポストセブン
鳥取県を訪問された佳子さま(2025年9月13日、撮影/JMPA)
佳子さま、鳥取県ご訪問でピンクコーデをご披露 2000円の「七宝焼イヤリング」からうかがえる“お気持ち”
NEWSポストセブン
長崎県へ訪問された天皇ご一家(2025年9月12日、撮影/JMPA)
《長崎ご訪問》雅子さまと愛子さまの“母娘リンクコーデ” パイピングジャケットやペールブルーのセットアップに共通点もおふたりが見せた着こなしの“違い”
NEWSポストセブン
ウクライナ出身の女性イリーナ・ザルツカさん(23)がナイフで切りつけられて亡くなった(Instagramより)
《監視カメラが捉えた残忍な犯行》「刺された後、手で顔を覆い倒れた」戦火から逃れたウクライナ女性(23)米・無差別刺殺事件、トランプ大統領は「死刑以外の選択肢はない」
NEWSポストセブン
国民に笑いを届け続けた稀代のコント師・志村けんさん(共同通信)
《恋人との密会や空き巣被害も》「売物件」となった志村けんさんの3億円豪邸…高級時計や指輪、トロフィーは無造作に置かれていたのに「金庫にあった大切なモノ」
NEWSポストセブン