裏社会事情に精通するフリーライターの鈴木智彦

裏社会事情に精通するフリーライターの鈴木智彦。「(サブスク解禁は)待ちに待っておりました。初めて聴いた『喝采』がヒットした1972年はまだ6歳でしたが、札幌生まれの私にとって、地元で冬季五輪が開かれたこの年の記憶だけは鮮明です」

妄想を書きたくなった

 ちあきの存在は、さまざまなジャンルで活躍する人たちの創作活動にも影響を与え続けてきた。

 ちあきの曲を聴いて「思わず夢を見た」と語るのは、芥川賞作家の村田喜代子(79)だ。

「彼女の『朝日のあたる家(朝日楼)』というアメリカの民謡をカバーした歌を聴いた時、もう鳥肌が立ちました。ニューオリンズにある女郎屋が舞台で、故郷を離れ、そこへ流れ着いた女性が主人公の歌です。

 その曲を聴いた夜、なぜか自分が女郎屋から抜け出すことができずに働く夢を見たんです。それは、夫が大動脈瘤を発症した頃でした。当時、夫はいつ血管が破裂するかわからない状況で、車の運転も禁止されていました。私自身、手術までの日々を見守ることで心労が重なっていた。そんな時に見た出口の閉ざされたような夢の世界は、『朝日楼』の世界観とどこか似ていたんです」

 夫の闘病経験を元に執筆したのが、村田の小説『あなたと共に逝きましょう』(2009年)だった。

「連載中、何度もちあきさんの『朝日楼』が頭をよぎりました。彼女の歌声を聴くと、胸が焼けるような悲愴感に包まれ、底知れない恐怖も感じる。人生を落ちるところまで落ちて行った歌の凄みが、今も私の胸を震わせます」

 映画監督で作家の森達也(68)も、青春時代に『喝采』『夜へ急ぐ人』でちあきの虜になった1人だ。

「『喝采』が出た1972年は高校生になったばかりでしたが、歌の凄さは圧倒的だと思いました。1977年の紅白で見た『夜へ急ぐ人』のパフォーマンスは圧巻で、サビで“おいで、おいで”と左手を伸ばして指をくねらせる時の表情たるや。歌というより、感情そのものを表現するひとり劇でした」

 森は2007年に上梓したエッセイ『ぼくの歌・みんなの歌』(講談社刊)にちあきを登場させている。

「メディアから姿を消して10年以上経過しても、頭の中ではずっとちあきなおみが気になっていた。どこかで生きているわけだから、うちの近所にいてもいいはずだ。そんな妄想を書きたくなったのだと思います」

 春先に着物姿で日傘をクルクル回しながら歩くちあきなおみ。同エッセイではそんな姿が描かれている。

「今でも生歌を聴いてみたい気がするけど、すっぱり消えたからこそ、語りたくなる。これからもそうした存在であり続けると思います」

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