日本人学校に集まった献花。被害者の死を悼むメッセージが添えられている(写真/共同通信フォト)
人口約1800万人の深センは、中国国内でも出稼ぎ労働者が多いことで知られ、北京や上海に比べて治安はやや不安定。それでも、被害者家族が住んでいる南山地区は比較的、富裕層が住むエリアだという。
「被害者家族は家賃50万円ほどの駐在員向けの高級マンションに住んでいたそうです。通っていた日本人学校も徒歩圏内で、警備員が常駐し、警察官も毎日巡回していた。学校には日本国籍を持つ約250人の児童が通っており、警備にも力を入れていたのですが……」(前出・深センの駐在員)
日本のエリートサラリーマンの子女が通う学校のすぐ目の前で起きた惨劇。しかし、以前から中国国内にはそうした悲劇を招く雰囲気が充満していたという。
SNS上で“襲撃計画”
記憶に新しいのは、今年6月に中国東部の蘇州で発生した事件。日本人学校のスクールバスに乗っていた親子が襲撃され、バスに同乗していたガイドの女性が犯人を制止しようとして命を落とした。現在、中国ではそうした襲撃事件が後を絶たない。
「日本のメディアは日本人が被害に遭わない限りいちいち報道しませんが、街中で刃物をふるったり、人混みに車で突入したりする通り魔的な犯行は、中国全土で見ると毎月のように発生しています。ここ数年、経済成長が鈍化している中国では、社会に不満を抱える人たちも多い。今回は、国内での愛国教育によって醸成された反日感情により、不満のはけ口として日本人が狙われたと分析する人たちもいます」(前出・中国在住ジャーナリスト)
なかでも、“標的となりやすい”と指摘されていたのが日本人学校だった。実際、垂秀夫前駐中国大使も、今回の事件を受けて次のように指摘している。
《数年前から、いつ起きてもおかしくない状況があった。中国のSNSでは、日本人学校に関する悪意と誤解に満ちた動画が何百本も氾濫している》(『読売新聞』2024年9月20日)
中国のSNSでは、深センとは別の日本人学校を標的とした“襲撃計画”も流布していた。
「日本人への偏見に満ちたアカウントでは、事件発生以前から『(柳条湖事件の翌日にあたる)9月19日に杭州の日本人学校に集結しよう』という呼びかけが拡散されており、児童たちの身に危険が及ぶのではないかと領事館では警戒を強めていた最中でした。また、日本の外務省は中国各地の日本人学校の警備費用として、すでに来年度予算に約3億5000万円を計上していて、現場に危機感が募っていたことが伝わってきます」(外務省関係者)
事件の発生により、改めて根深い緊張関係が顕在化した日中両国。そんななか、別の中国在住ジャーナリストは、前述の父親のコメントについて、中国ならではの“ある政治的な思惑”が関与した可能性を指摘する。