ライフ

臨床心理士・東畑開人さん『雨の日の心理学』インタビュー「経験を重ねると、やっぱり大事なのはバランスだなと思う」

『雨の日の心理学 こころのケアがはじまったら』/角川書店/1760円

『雨の日の心理学 こころのケアがはじまったら』/角川書店/1760円

【著者インタビュー】東畑開人さん/『雨の日の心理学 こころのケアがはじまったら』/角川書店/1760円

【本の内容】
《こころのケアははじめるものではなくて、はじまってしまうものである》。本書の「まえがき─雨の日のガイダンス」はこんな一文で始まる。《よく晴れた休日に散歩に出かけたら、突然大雨が降ってくるようなもの》と東畑さんが語るそのとき、私たちはどのように対処したらいいのか。夫や子ども、親、友達など、大切な誰かのケアが必要になったときに知っておくと役に立つ、こころのケアの本質から小手先の技術までを易しい言葉で授業形式で説いた入門書。

人は晴れの日と雨の日を行き来しながら暮らしている

 カウンセラー(臨床心理士)と大学の先生と執筆業、三足のわらじを履いて多忙な毎日を送っていた東畑さんだが、2022年にそれまで勤務していた大学を退職した。

「週刊誌の連載が始まって、それまで以上にめちゃくちゃ忙しくなっちゃって、ある日、脳が『ピキッ』っていったんですよ。難しいことを考えようとすると頭が痛くなるようになって」

 脳ドックで診てもらっても何も問題はなく、どうやら心因性のもののようだった。

「3つの仕事を続けていくのは無理だと思って、どれか1つやめようと考えたんです。臨床は自分にとって根源的なものなのでやめられないし、執筆も続けたい。やめるなら大学だなと思って学科長に申し出たら、嘘みたいに頭の痛みが消えました。

 退職できるのは1年後だったので、物理的な状況は変わっていないのに(笑い)」

 教えること自体は嫌いではなかったので、退職したのとほぼ同じころに、オンラインで一般向けのセミナーを始めることになった。今回の本も、オンラインの授業がもとになっている。

「大学に勤めてるときに気づいたんですけど、多分ぼく、すごく授業がうまいんですよ。どうやって学生を眠らせずに、『わかる』と思わせるかというところで勝負してきたんです。講演とか研修に呼ばれることもあって、臨床心理士とか看護師とか不登校の子どもを抱える親御さんの会とか、そういうところでやる講演ってすごい真剣勝負感があって。質問もすごくシビアで、こういう仕事はきちんと引き受けてないといけないな、と感じました」

「雨の日の心理学」という本のタイトルに心ひかれる人も多いだろう。晴れている日もあれば雨の降る日もある。雨が降っている日の「こころのケア」には何が必要か、ということがわかりやすく説かれている。

「心って、気候と重ねて語られることが多いと思うんですよ。心が曇っているとか、晴れ晴れとするとか。

 天気の気は気持ちの気でもありますし、奈良時代、平安時代ぐらいから、世界の質感に自分の心の質感を重ねる想像力ってずっと変わらずあるものなんじゃないかと思うんですよね」

 5日間続く授業という設定で、「こころのケアとはなんだろうか」から始まり、「晴れの日」のケアとは、「雨の日」とは、と続いていく。

「ケアの本ってたくさん出ていると思うんですけど、元気な人がもっと元気を出すための自己啓発書か、病気の人にどう接するかの本の、どちらかになりがちです。『晴れの日』の本か『雨の日』の本かってことなんですけど、人は晴れの日と雨の日を行き来しながら暮らしているんだということをぼくは一番言いたかったですね。ふつうに暮らしているときは、みんな結構、きちんとケアできているのに、時々、雨が降って、相手のことがわからなくなってしまう。そういうときにどうしたらいいんだろう、みたいなことがこの本の大きなストーリーになっています」

関連キーワード

関連記事

トピックス

全国でクマによる被害が相次いでいる(AFLO/時事通信フォト)
「“穴持たず”を見つけたら、ためらわずに撃て」猟師の間で言われている「冬眠しない熊」との対峙方法《戦前の日本で発生した恐怖のヒグマ事件》
NEWSポストセブン
韓国のガールズグループ「AFTERSCHOOL」の元メンバーで女優のNANA(Instagramより)
《ほっそりボディに浮き出た「腹筋」に再注目》韓国アイドル・NANA、自宅に侵入した強盗犯の男を“返り討ち”に…男が病院に搬送  
NEWSポストセブン
ラオスに到着された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月17日、撮影/横田紋子)
《初の外国公式訪問》愛子さま、母・雅子さまの“定番”デザインでラオスに到着 ペールブルーのセットアップに白の縁取りでメリハリのある上品な装い
NEWSポストセブン
ドジャース入団時、真美子さんのために“結んだ特別な契約”
《スイートルームで愛娘と…》なぜ真美子さんは夫人会メンバーと一緒に観戦しないの? 大谷翔平がドジャース入団時に結んでいた“特別な契約”
NEWSポストセブン
山上徹也被告の公判に妹が出廷
「お兄ちゃんが守ってやる」山上徹也被告が“信頼する妹”に送っていたメールの内容…兄妹間で共有していた“家庭への怒り”【妹は今日出廷】
NEWSポストセブン
靖国神社の春と秋の例大祭、8月15日の終戦の日にはほぼ欠かさず参拝してきた高市早苗・首相(時事通信フォト)
高市早苗・首相「靖国神社電撃参拝プラン」が浮上、“Xデー”は安倍元首相が12年前の在任中に参拝した12月26日か 外交的にも政治日程上も制約が少なくなるタイミング
週刊ポスト
相撲協会の公式カレンダー
《大相撲「番付崩壊時代のカレンダー」はつらいよ》2025年は1月に引退の照ノ富士が4月まで連続登場の“困った事態”に 来年は大の里・豊昇龍の2横綱体制で安泰か 表紙や売り場の置き位置にも変化が
NEWSポストセブン
三重県を訪問された天皇皇后両陛下(2025年11月8日、撮影/JMPA)
《季節感あふれるアレンジ術》雅子さまの“秋の装い”、トレンドと歴史が組み合わさったブラウンコーデがすごい理由「スカーフ1枚で見違えるスタイル」【専門家が解説】
NEWSポストセブン
俳優の仲代達矢さん
【追悼】仲代達矢さんが明かしていた“最大のライバル”の存在 「人の10倍努力」して演劇に人生を捧げた名優の肉声
週刊ポスト
10月16日午前、40代の女性歌手が何者かに襲われた。”黒づくめ”の格好をした犯人は現在も逃走を続けている
《ポスターに謎の“バツ印”》「『キャー』と悲鳴が…」「現場にドバッと血のあと」ライブハウス開店待ちの女性シンガーを “黒づくめの男”が襲撃 状況証拠が示唆する犯行の計画性
NEWSポストセブン
全国でクマによる被害が相次いでいる(右の写真はサンプルです)
「熊に喰い尽くされ、骨がむき出しに」「大声をあげても襲ってくる」ベテラン猟師をも襲うクマの“驚くべき高知能”《昭和・平成“人食い熊”事件から学ぶクマ対策》
NEWSポストセブン
オールスターゲーム前のレッドカーペットに大谷翔平とともに登場。夫・翔平の横で際立つ特注ドレス(2025年7月15日)。写真=AP/アフロ
大谷真美子さん、米国生活2年目で洗練されたファッションセンス 眉毛サロン通いも? 高級ブランドの特注ドレスからファストファッションのジャケットまで着こなし【スタイリストが分析】
週刊ポスト