村上敦子被告の自宅
刺された父から言われた言葉
直哉被告にとってJUNは、日常の相談相手であるだけでなく、このように“ピンチの時に霊的な力を与えてくれる存在”となってゆく。そんな2022年12月、敦子被告が新型コロナウイルスに感染し、のちも体調不良が続いていたことから、絶大な信頼を寄せるJUNに“敦子は呪われているのか”と尋ねると、2023年1月、次のようなLINEが届いた。
「俺も入院して死にかけたことがある」
直哉被告はこの返答から、“敦子被告は呪われている”と思ったのだという。その直後、実母AさんのことをJUNに尋ねると、「Aの裏に周り、必ず手助けをしている人がいる。その人が柱となって、Aを支えている。Aの周りの首謀者を殺さないといけない」とJUNは返答してきたのだという。さらに事件の2か月前には、「父もAを助けている1人だ」「間違いないと思う」とも送信してきたことから、直哉被告は「信じられない気持ちが強いが、JUNさんが言うなら……」と信じてしまった。
「具体的に父の殺害を考えたのは2023年4月になってからです。JUNさんからは『脳梗塞になって5月で2年になる。死ぬ確率が高くなる』『時間がない』と言われていて、4月に入り、あと1か月しかないと思っていました。4月1日に、敦子さんに対して、父を殺すことについて違う言葉で説明しましたが、敦子さんは殺害を理解していると思いました」(直哉被告の証言)
こうして直哉被告は“敦子被告にかけられた呪いを解くため”に実の父親の殺害を決意し、2023年4月17日、隆一さんとの麻雀後に刺身包丁で隆一さんを刺して立ち去った。
「刺したあと、父は振り返って、私と話すことができた……『何してるの?』と聞かれ、『ごめん』。『捕まるぞ』と言われたので、『そうかもしれない』と答えました。そして『帰れ』と言われたので、『はい』と言って帰りました。車で出発し、途中で何かアリバイ工作として、父のLINEを操作して私とトークしているように見せました」(同前)
霊媒師JUNのアカウントは事件数日後に消えている。直哉被告もJUNとのトークを削除している。しかし、警察の捜査により、直哉被告がJUNに対して送信した内容は判明している。またJUNのアカウント登録時に使われた電話番号が、敦子被告の実家の固定電話番号であることもわかっている。そしてJUNのメッセージは、敦子被告が普段使用している携帯電話のテザリング機能を使用して送信されていることもわかっている。判決ではこうした証拠から「霊媒師JUNは敦子被告だった」と認定しているが、驚くことに、事件から1年後の裁判員裁判の場でも、直哉被告は「JUNは敦子被告」だとは認めなかった。