村上敦子被告の実家
「疲れましたぁ~~」
「JUNさんが敦子さんだとは思わない。サトウジュンイチだと思っています」(直哉被告の証言)
当然ながら、敦子被告もこれを認めていない。
弁護人「あなたがJUNのアカウントを使ったことは?」
敦子被告「ないです!!」
弁護人「くどいけど、直哉さん宛に、JUNのアカウントを使って発信したことは……」
敦子被告「ないです!」
質問を遮ってまで、きっぱりした口調で否定。直哉被告から呪いの話を聞いたことも「ないです!!」と、同様に強く否定していた。そんな売春・美人局詐欺グループの頂点である敦子被告には、元夫の松野新太との間に3人の子がいる。そのうち一番下の長男が情状証人として出廷し、「母としては自慢の母」と、敦子被告への思いを語った。
「人を助けたりすることが多かった。手本のような母。自分がしてもらったことを、同じようにしていきたい」(長男の証言)
事件前に、長男と姉はそれぞれ新築一軒家を購入している。長男はその際、初期費用として隆一さんに150万円を借りていたが、事件で隆一さんが殺害されたのち、「息子の保彰と直哉から、返済しなくていいと言ってもらっています」と、事件で借金返済を免れていることも語った。また隆一さんの長男・保彰は、隆一さんの葬儀の場において、伯母を差し置いて、退職金を受け取ることを決めていた。振込後は敦子被告と共にこれを管理、費消している。
長男から見て「自慢の母」である敦子被告は、判決で「殺人事件の首謀者としてJUNにも成りすまし、直哉被告を言葉巧みに隆一さん殺害へと誘導し、自己の手駒として自らの手を汚さないようにして殺人を実行した」と指摘されている。またその動機についても、裁判所は「美人局の証拠を握っている可能性がある隆一さんの存在を脅威に感じ、証拠等が明るみに出ることを防ぐために隆一さんを殺す動機があった」と認定した。
敦子被告は法廷で終始、眉間に皺をよせ、また直哉被告の被告人質問の際に突然嗚咽するなどといった行動があったが、検察官が懲役30年を求刑した論告の日、閉廷後にはまた違った面を見せた。
「疲れましたぁ~~」
ひときわ明るい声で弁護人らにそう話しかけ、傍聴席にいた家族らに笑顔で手を振り「大丈夫~?」などと話しかけ始め、裁判長から注意を受けていた。霊媒師JUNを偽装し、「味方だと思っていた」という直哉被告を操り、我が子に金を貸してくれた隆一さんを殺害させながらも、法廷で「JUNは自分ではない」と言い張り続けた敦子被告は、控訴審でも同じように主張し続けるのだろうか。
【プロフィール】
高橋ユキ(たかはし・ゆき)/1974年、福岡県生まれ。ノンフィクションライター。2005年、女性4人の傍聴集団「霞っ子クラブ」を結成しブログを開設。以後、フリーライターに。主に刑事裁判を傍聴し、さまざまな媒体に記事を執筆している。『つけびの村 山口連続殺人放火事件を追う』(小学館文庫)、『木嶋佳苗 危険な愛の奥義』(徳間書店)、『逃げるが勝ち 脱走犯たちの告白』(小学館新書)など、事件取材や傍聴取材を元にした著作がある。