黙って行って帰ってこようと思ったんですけど──

『越後つついし親不知』は、とにかく撮影が過酷だったそう。

「あんなにキツイ現場はなかったです。雪の中に押し倒されたりね。田んぼのぬかるみに顔を押し付けられて殺されるんですけど、その場面を何度も何度も、1週間ぐらいかけて撮りましたから。田んぼには雑菌が多いでしょ? 撮影が終わって半年ほど変な咳が続きました」

 思い出の色合いは対比的だが、どちらの映画も、佐久間さんの、これまでにない貌と魅力を引き出した作品である。

 NHK大河ドラマ『おんな太閤記』のねね(豊臣秀吉の妻)や、『唐人お吉』などの舞台と、映画、テレビ、舞台がそれぞれ活気のあった時代に、代表作というべき作品がいくつも生まれている。

「作品に恵まれていました。でも全部が全部じゃないですよ。いろいろな作品に出させていただいて、そのご褒美としていい作品に巡り合ったんでしょう」

 まじめで、集中力がすごい。人にすすめられて始めた書道に熱中したときも、黙々と800枚もの作品を一気に完成させたという。日展に入選し、ニューヨークで個展をひらく腕前だったが、いまは少しお休みしている。

 行動的である。本の中にも、数年前に長女たちと北海道に行き、久しぶりにスキーをしたというエピソードが出てきて驚いた。

 今年1月、この本の出版にあわせて佐久間さん出演の映画の特集上映「女優・佐久間良子」が、名画座、東京・神田神保町の神保町シアターで行われたときも、佐久間さんがふらっと現れ、スタッフを驚かせたことがあったとか。

「黙って行って帰ってこようと思ったんですけど、せっかく上映してくださっているのでシアターの皆様にお世話になったお礼として菓子折りをお持ちしたんですよ」

 昨年、カリフォルニアで行われたエミー賞の授賞式にも参加した。長男で俳優の平岳大さんがドラマ『SHOGUN 将軍』で助演男優賞にノミネートされ、佐久間さんも招待されたのだが、大女優が1人で飛行機に乗って行ってきたと知って驚いた。

「そうですか? だって空港に着いたら迎えに来てくれてますから。私はどこでも1人で行きます。エミー賞のパーティーは、私も初めてでしたけど、華やかで、言葉に表せないぐらい素晴らしかったです

【プロフィール】
佐久間良子(さくま・よしこ)/1939年東京生まれ。私立川村高等学校卒。第4期ニューフェイスとして東映に入社し、1958年に『美しき姉妹の物語・悶える早春』で映画デビュー。以後、『人生劇場 飛車角』や『五番町夕霧楼』など140本以上の映画に出演。舞台『唐人お吉』などでも活躍。1981年『おんな太閤記』でNHK大河ドラマ史上初めての単独女性主演を果たした。プライベートでは1970年に俳優の故・平幹二朗さんと結婚し双子の男女を出産。1977年には書道で日展に入選。

取材・文/佐久間文子

※女性セブン2025年3月27日・4月3日号

【書評】『ふりかえれば日々良日』佐久間良子/小学館/1870円

【書評】『ふりかえれば日々良日』佐久間良子/小学館/1870円

関連記事

トピックス

若手俳優として活躍していた清水尋也(時事通信フォト)
「もしあのまま制作していたら…」俳優・清水尋也が出演していた「Honda高級車CM」が逮捕前にお蔵入り…企業が明かした“制作中止の理由”《大麻所持で執行猶予付き有罪判決》
NEWSポストセブン
「正しい保守のあり方」「政権の右傾化への憂慮」などについて語った前外相。岩屋毅氏
「高市首相は中国の誤解を解くために説明すべき」「右傾化すれば政権を問わずアラートを出す」前外相・岩屋毅氏がピシャリ《“存立危機事態”発言を中学生記者が直撃》
NEWSポストセブン
3児の母となった加藤あい(43)
3児の母となった加藤あいが語る「母親として強くなってきた」 楽観的に子育てを楽しむ姿勢と「好奇心を大切にしてほしい」の思い
NEWSポストセブン
「戦後80年 戦争と子どもたち」を鑑賞された秋篠宮ご夫妻と佳子さま、悠仁さま(2025年12月26日、時事通信フォト)
《天皇ご一家との違いも》秋篠宮ご一家のモノトーンコーデ ストライプ柄ネクタイ&シルバー系アクセ、佳子さまは黒バッグで引き締め
NEWSポストセブン
過去にも”ストーカー殺人未遂”で逮捕されていた谷本将志容疑者(35)。判決文にはその衝撃の犯行内容が記されていた(共同通信)
神戸ストーカー刺殺“金髪メッシュ男” 谷本将志被告が起訴、「娘がいない日常に慣れることはありません」被害者の両親が明かした“癒えぬ悲しみ”
NEWSポストセブン
ハリウッド進出を果たした水野美紀(時事通信フォト)
《バッキバキに仕上がった肉体》女優・水野美紀(51)が血生臭く殴り合う「母親ファイター」熱演し悲願のハリウッドデビュー、娘を同伴し現場で見せた“母の顔” 
NEWSポストセブン
六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
《六代目山口組の抗争相手が沈黙を破る》神戸山口組、絆會、池田組が2026年も「強硬姿勢」 警察も警戒再強化へ
NEWSポストセブン
木瀬親方
木瀬親方が弟子の暴力問題の「2階級降格」で理事選への出馬が絶望的に 出羽海一門は候補者調整遅れていたが、元大関・栃東の玉ノ井親方が理事の有力候補に
NEWSポストセブン
和歌山県警(左、時事通信)幹部がソープランド「エンペラー」(右)を無料タカりか
《和歌山県警元幹部がソープ無料タカり》「身長155、バスト85以下の細身さんは余ってませんか?」摘発ちらつかせ執拗にLINE…摘発された経営者が怒りの告発「『いつでもあげられるからね』と脅された」
NEWSポストセブン
結婚を発表した趣里と母親の伊藤蘭
《趣里と三山凌輝の子供にも言及》「アカチャンホンポに行きました…」伊藤蘭がディナーショーで明かした母娘の現在「私たち夫婦もよりしっかり」
NEWSポストセブン
高石あかりを撮り下ろし&インタビュー
『ばけばけ』ヒロイン・高石あかり・撮り下ろし&インタビュー 「2人がどう結ばれ、『うらめしい。けど、すばらしい日々』を歩いていくのか。最後まで見守っていただけたら嬉しいです!」
週刊ポスト
2021年に裁判資料として公開されたアンドルー王子、ヴァージニア・ジュフリー氏の写真(時事通信フォト)
《恐怖のマッサージルームと隠しカメラ》10代少女らが性的虐待にあった“悪魔の館”、寝室の天井に設置されていた小さなカメラ【エプスタイン事件】
NEWSポストセブン