岡崎監督がメガホンを握った長編2作目『うぉっしゅ』(撮影/木村圭司)
永六輔の孫として生まれて
岡崎育之介は2016年に83歳で亡くなった永六輔の孫にあたる。映画『うぉっしゅ』に登場する紀江おばあちゃんの自宅は、永の別荘で撮影した。
失礼を承知で、「作品を作るにあたって、“永六輔の孫であるという武器”をどれだけ使ったか」との質問をぶつけてみた。
「もちろん、僕の名前をネットで検索すれば永六輔の孫であることはすぐにわかります。だけど、こちらから名乗ったことは一切ない。研さんへのオファーの際ももちろん同じです。そもそも、そういう質問をされることすら屈辱でもある。でもそれは宿命だと受け止めてます」
それまで快活だった岡崎の表情が少しだけ固くなった。
「僕のキャリアのスタートは俳優業です。なぜわざわざそこを選んだのか。永六輔がいたからです。僕の人生はずっと、永六輔の孫として生まれたこととの戦いでした。どうやったらそこから抜け出せるのか……それはね、究極のところをいうと、彼に勝つしかないってことなんです。
世間的なイメージはどうだかわかりませんが、永六輔は孫のぼくらからすると、すごくぶっきらぼうで怖い人でした。俳優の道を選んだとき、その報告をしに行ったんです。甘い考えの通用する世界じゃない、とかって叱られるかと思っていたんだけど、彼はひとこと『あそう、楽しんでね』とだけ言いました。ああ、やっぱり俺なんかには興味がないんだって、正直がっかりした。
でもね、最近になってやっと分かってきた。『仕事を楽しむ』ってことがどんなに大切かって。あの言葉は、永六輔の、実はものすごく深い愛情だったと、今は思えるようになってきたんですよね」
そんな岡崎は、映画『うぉっしゅ』も思い切り楽しんで作ったと自信を持って語った。
■取材・文/末並俊司(ジャーナリスト)