村上信五とマツコ・デラックス(番組公式HPより)
看過できない取材協力者のリスク
さらにそのプレッシャーは今回がそうだったように、継続して仕事をもらいたい外部のスタッフほど受けやすいだけに、それを軽減させられるかもポイントの1つ。
『月曜から夜ふかし』は長年、人気番組であり続けてきたからこそ、笑いの手数や撮れ高へのハードルが上がり、感覚が麻痺したところがあったのかもしれません。時に「面白くない」「『なるほど』というレベルで終わる」コメントをはさむくらいのほうが、健全に取材や編集が行われていることの裏付けになっていくのではないでしょうか。
今回の問題で、実は最も深刻なのは、「取材に協力した中国出身女性の生活に影響が出ていた」こと。問題発覚後、番組ホームページにアップされた文章の中に、「女性は、一日も早く元の生活に戻りたいと強く希望されていて、これ以上インタビュー内容の詳細や映像・画像が広がっていくことを危惧されています。SNSを含め、女性に対する誹謗中傷を行ったり、番組映像・画像等を使用したりしないよう切にお願い申し上げます」という記述がありました。
時間を割いて番組に無償協力してくれた人が、精神的に追い詰められ、生活が脅かされることは、当然ながらあってはならないこと。今後、不適切な編集は予防するのは当然ですが、その上で「コメントを放送することによって取材協力者をこのようなリスクにさらすことはないか」という視点を持ち続けることが求められていくでしょう。
ネットの検索窓に「月曜から夜ふかし」と入力すると、予測変換ワードに「打ち切り」「不適切」「カラス」「謝罪」などの不穏なフレーズが表示されます。これも事態の深刻さを物語っていますし、国際問題にも発展しかねないほどの問題だった割に、取材自粛期間が短かったこともあって不信感は払拭できていないのでしょう。
制作サイドは再発防止策として「VTRのチェック体制を強化」「制作モラル向上を図る研修の実施」を掲げていますが、はたしてそれで本当に大丈夫なのか。しばらくは注目が集まるため短期的に視聴率は上がるかもしれませんが、長期的に見たら「反省がない」「面白くなくなった」などと言われてしまうリスクもあり得るでしょう。もともと同番組は深夜帯の放送で「リスク覚悟」のコンセプトですが、今後は制作サイドの地道な努力が存続の鍵を握っていくことが推察されます。
【木村隆志】
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者。雑誌やウェブに月30本前後のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』『どーも、NHK』などの批評番組に出演し、番組への情報提供も行っている。タレント専門インタビュアーや人間関係コンサルタントとしても活動。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。