悪党と呼ばれた楠木党。当時の悪党とは権力に阿らず心のままに生きる者達のこと
雨が降ったり、気温が高い日があったりと、天候が不安定なこの季節。快適な室内にとどまって、読書に没頭するには最適かもしれない。おすすめの新刊4冊を紹介します。
『人よ、花よ、(上)(下)』今村翔吾/朝日新聞出版/上巻2310円、下巻2200円
戦のない世にしたい。今村氏の小説にはいつもこの思いが流れる。南北朝時代を背景に楠木正成・正行親子を描く。正行の父語りを経て、彼自身の物語が動き始めるのは上巻半ば。美女茅乃との出会い、北朝と和議に持ち込む遠望、独自の陣形での連戦連勝。南朝の後村上帝もまた“生きたい”人だった。花とは桜のこと。最後の合戦に赴く正行を見送る茅乃の心持ちは桜雨のようだ。
おかゆって物足りなかったけど、「夏の養生」にはすごくいいみたい
『午後のおいしい薬膳日記 1』午後 著・櫻井大典 監修/小学館/1540円
夏に胡瓜を食べると、いっきに体温が下がる気がする。中医学の五性(寒・涼・平・温・熱)によれば胡瓜は寒性。“体が上げる声”っておおむね正しい。花粉症の春、憂鬱な梅雨時、日差しが凶暴な夏、もの悲しい秋、冷え性の冬。中医学の知識を得て春夏秋冬の不調と向き合い、食生活を改善する薬膳グルメエッセイ。緑茶がゆ、中華風がゆなど、今年の夏はおかゆで乗り切ろっと。
福祉のケアと編集の仕事って似てるの!? 定年退職後の集大成が明かす共通の思想
『ケアと編集』白石正明/岩波新書/1056円
大宅ノンフィクション賞や新潮ドキュメント賞、小林秀雄賞などを受賞した名著が並ぶ書籍シリーズ〈ケアをひらく〉。これらを手がけた編集者が著者。ケアとは何かをずっと考えてきた。心の師としたのは精神障害者の活動拠点「べてるの家」のソーシャルワーカー向谷地生良氏。氏はノイズを残し逸脱をそのまま輝かせる。編集の仕事もそれが大事と。この新書自体も名著です。
2022年上半期の芥川賞受賞作。弱々しい人が最強という職場のホラー
『おいしいごはんが食べられますように』高瀬隼子/講談社文庫/660円
新卒で入社して5年目の押尾。彼女は居酒屋で先輩の二谷に言う。芦川さんが嫌い。芦川は偏頭痛で早退し、翌日手作り菓子を配るような愛されキャラ。一方押尾は偏頭痛の薬を飲んで残業する女。二谷は芦川と付き合っていて、芦川の手料理や菓子(に宿る精神)に反感を持ちつつも、結婚を考えるところが怖い。縁がないから言えるけど、会社も結婚もオソロしげな所だ……。
文/温水ゆかり
※女性セブン2025年6月5・12日号