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【逆説の日本史】人間の行為にとって大切なことは「なにをやったか?」の検証である

作家の井沢元彦氏による『逆説の日本史』

作家の井沢元彦氏による『逆説の日本史』

 ウソと誤解に満ちた「通説」を正す、作家の井沢元彦氏による週刊ポスト連載『逆説の日本史』。今回は近現代編第十五話「大日本帝国の確立X」、「ベルサイユ体制と国際連盟 その4」をお届けする(第1455回)。

 * * *
『逆説の日本史』シリーズの古くからの愛読者は別だが、最近たまたま読んでくださっている人々のなかには、私が左翼歴史学者について「彼らは日本を貶めることだけが目的だ(歴史上の真実の探求は問題では無い)」と述べていることに対して、「言い方が極端すぎる」とか、「そこまでひどくはないだろう」などと考えている人もいるかもしれない。

 常識的にはそう考える人がいても不思議では無いのだが、「尼港事件」の解説でも繰り返し述べたように、そうでは無い。本当に彼ら左翼歴史学者は、歴史の隠蔽や曲解を恥じるどころか「正義」と信じてそれをやってきている。さらに日本にとって不幸なことには、彼ら左翼歴史学者は「一部の勢力」では無く、日本の高校歴史教科書の制作をリードする一大勢力だったことである。だから、パリ講和会議における「人種差別撤回法案」についても、「日本を貶める」意図のもとに「問題の矮小化」を謀っている教科書の実例を紹介した。

 それが事実だと認識してもらうためには、この『逆説の日本史』で過去に韓国のデタラメな反日教育を批判した部分を読んでいただくのがよいかもしれない。じつは、最近ようやくと言っていいが韓国の若者たちの間にも、自分たちが受けてきた歴史教育はどこかおかしいのではないか、という認識が広がりつつある。

 もちろん、まだ主流となってはおらず、だからこそ保守派の大統領が罷免されるという事態になってしまったのだが、幸いなことにいまだに左翼歴史学者全盛の韓国とは違って、最近の日本では歴史上の真実の探求を最優先として(本来あたり前の話なのだが)、かつての「師匠の悪行」を追及も批判もしない左翼歴史学者の「弟子」とは一線を画した研究者もちらほら出てきている。

〈これまで人種差別撤廃提案については大きく分けて二つの異なった見方から論じられることが多かった。日本が世界の有色人種を代表して、世界で初めて利他的に国際会議で人種平等を主張したという、【ことさら日本を顕彰する見方】と、そもそも山東権益欲しさに、その取引材料として人種差別撤廃提案を持ち出したという、ことさら日本を貶めるような見方である。〉
(『人種差別撤廃提案とパリ講和会議』廣部泉著 筑摩書房刊 【 】は引用者*誌面では傍点)

 注意していただきたいのは傍点部分で、これはもちろん左翼歴史学者の主張なのだが「山東権益欲しさに、その取引材料として人種差別撤廃提案を持ち出した」というのは前回述べたように完全に捏造であり、歴史的事実では無い。だからこそ、著者は「世界の有色人種を代表して」「世界で初めて利他的に国際会議で人種平等を主張した」という「見方」については「顕彰」という言葉で表現しているが、「そもそも山東権益欲しさ」云々の左翼歴史学者の主張については、私と同じく「日本を貶める」と表現しているのだ。

「顕彰」という言葉は「功績などを一般に知らしめ褒める」という意味で「騙す」とか「ごまかす」といった要素は無いが、「貶める」には「デタラメなど使い悪口を言って価値を落とす」というニュアンスがある。つまり、公平かつ客観的に見ようとするならば、誰が見ても左翼歴史学者の主張はおかしいということだ。

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