改革が何度も有名無実化
角界関係者がこの日の発表で違和感を持ったのが、臨時理事会において6月9日付で宮城野親方が退職し、同日付で現・伊勢ヶ濱親方が「宮城野」名跡を継承襲名する点だったという。現・伊勢ヶ濱親方は7月6日の定年退職後、参与として再雇用されることも認められた。元親方が言う。
「表向きは伊勢ヶ濱親方が『宮城野』を継承したことになっているが、実質的な所有者は白鵬でしょう。いずれ炎鵬や伯桜鵬といった白鵬の弟子が継承するという条件で伊勢ヶ濱親方が一時的に襲名することを認めたのではないか。実質的には俗にいう借株でしょう」
引退後の力士が親方として相撲協会に残るためには、105ある「年寄名跡」のいずれかを襲名しなければならない。この「年寄名跡」がなければ、どれだけ現役時代に実績を残しても、協会を去るしかない。
「高額の売買や賃借が度々問題化し、これまで年寄名跡取得のルールは複数回、変更されてきた。1998年の改革では取得要件、準年寄制度創設、借株禁止などが決まった。しかし、猶予期間を経ても借株の実態が変わらず、有名無実化した。その後にあった抜本的な変革のチャンスは2014年に相撲協会が公益財団法人へと移行するタイミングだった。
税制上の優遇措置を受ける公益法人となる以上、構成員の不透明な金銭のやり取りを認めるわけにはいかず、年寄名跡は個人所有から協会の一括管理とすることに決まった。金銭による売買ができなくなり、借株も禁止に。しかし、公益法人移行から10年以上が経過してなお、大物力士が引退するたびに年寄名跡の変更が行なわれる。つまり、現役中の大物力士から年寄名跡を借りている親方がいる証左で、実態は変わっていない」(前出・相撲ジャーナリスト)
“一時的襲名”といった方便が用意され、相撲協会が毎年3月に発表する「年寄職務分掌」では、禁止となったはずの借株の親方が明記されている。立田川(元前頭・寶智山)、出来山(前頭・翔天狼)、北陣(元前頭・天鎧鵬)、錦島(元小結・千代鳳)、井筒(元前頭・明瀬山)、千田川(元前頭・徳勝龍)といった親方は借株で協会に残っている。
「書類上は継承しているが、現実は借株という親方も少なくない。部屋の師匠でも先代の年寄名跡を借りているケースがいくつかある。
ただ、さすがにそうした借株で再雇用が認められたケースはない。ただでさえ、年寄名跡を保持したまま協会に残る再雇用によって親方の枠の空きが減り、組織の硬直化につながっている。借株での再雇用を認めていたらますます空き株が出てこなくなってしまうからです。今回の『宮城野』の扱いは例外中の例外ではないか」(前出・元親方)