宗教学者の島田裕巳氏(本人提供)
皇室典範の規定を改める女性・女系天皇の容認に踏み込んだ、読売新聞の提言「皇統の安定 現実策を」(5月15日付朝刊)は、大きな注目を集めた。だが、政界では皇位継承に関する与野党協議を担った自民党・麻生太郎最高顧問と立憲民主党の野田佳彦代表の意見が対立、今国会でのとりまとめは見送られた。実現するなら今しかない──「愛子天皇」の誕生を願う宗教学者の島田裕巳氏が緊急提言する。
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皇室の存続、皇族数の確保が危機的である以上、女性天皇はもちろん、女系天皇も想定しておかなければならないのではないか。
歴史学の専門家には、過去の女性天皇はイレギュラーな事態に対応するために生まれたとみる人もいるが、私は一概にそうとは思わない。
古代の憲法にあたる養老律令・継嗣令には「天皇の兄弟、皇子はみな親王とすること。女帝の子もまた同じ」との条文がありました。「王政復古」のスローガンを掲げて天皇中心の政治体制に回帰することを主張・先導した明治の国学者たちもこの条文を「女性天皇の子供も男性天皇の子供と同様に親王とする規定」として解釈し、女性天皇を否定する考えはなかった。
男系男子による継承が今後も可能なら話は別だが、今は男性か長子かということにこだわっている時代ではない。その重大性を国民もわかっていない以上、大胆な変化が必要だ。その手段が女性天皇であり、実現すれば、国民の考え方もだいぶ変わるだろう。
国会では女性宮家の創設や旧皇族からの皇籍復帰が議論されているが、あまり効果はない。女性皇族が結婚しても子供を皇族にしないのであれば、それは「宮家」ではない。皇族の結婚のハードルをさらに高くしているように見える。
旧皇族の復帰も本当に手を挙げる人がいるのか。もし手を挙げる人がいても、国民の信頼を得られるとは思えない。平等が重視される今の社会で、新たな特権階級をつくることは得策ではない。
男系男子で家を続けるなど天皇家以外には例が見当たらず、いくら伝統と言っても社会的にはほぼ滅びていく状況にある。であれば、歴史学の専門家に過去の女性天皇を「中継ぎ」だとする見解があるくらいなのだから、皇位を悠仁親王につなぐまで一定期間、愛子天皇が中継ぎの役割を果たすかたちはどうか。
それなら保守派が望む男系男子での継承の道も確保される。あるいは愛子天皇の時代に、女系天皇を容認する声が高まるかもしれない。少なくとも、皇位継承について国民の関心は今より高まるはずだ。皇族として生まれ育った愛子さまは、自然にその役割を果たされており、その姿は国民に安心感を与えられている。
【プロフィール】
島田裕巳(しまだ・ひろみ/1953年生まれ、東京都出身。宗教学者。『日本人にとって皇室とは何か』(プレジデント社)など著書多数。
※週刊ポスト2025年6月27日・7月4日号