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《アンパンマン誕生秘話》ハンサムで強くて自己陶酔的な“スーパーマン”への「憧れ」と「否定」から生まれた“まる顔ヒーロー” やなせたかしさんが魂を込めた「ほんとうの正義」

アンパンマンとやなせたかし氏(時事通信フォト)

アンパンマンとやなせたかし氏(時事通信フォト)

 お腹を空かせた人のもとに颯爽とあらわれ、顔のパンをちぎって分け与える。宿敵・ばいきんまんが悪だくみをすれば“アンパンチ”で成敗する。正義のヒーロー「アンパンマン」は3頭身で愛らしい丸顔、赤い服に茶色のマントで人々に親しまれてきた。

 しかし実は、1969年に原作者・やなせたかしさんが初めて描いた「アンパンマン」は、今のキャラクターデザインとはまるで異なるものだった。当時流行していた本家アメリカのスーパーマンへのアンチヒーローとして、さらにはカッコ悪い“中年ヒーロー”として誕生したという。

 東京科学大学でメディア論の教壇に立つ柳瀬博一氏の著書『アンパンマンと日本人』(新潮新書)より、知られざる“アンパンマンの誕生秘話”をお届けする。(同書より一部抜粋して再構成)【全4回中の第2回。第1回から読む】

* * *
 アンパンマンが誕生した1960年代~1970年代のやなせたかしの仕事を丹念に追いかけていくと、やなせたかしがアンパンマンというキャラクターを創造した理由が、しかもあえて戦わないカッコ悪いヒーローとして描いた理由が、はっきりわかります。

 結論から言いましょう。アンパンマンは、スーパーマンへの憧れと同時に否定形として誕生しました。アンチ・スーパーマン。それがアンパンマンです。

 アンパンマンのいでたちは、スーパーマンそっくりです。どちらも、ぴったりしたボディースーツに、胸にはトレードマーク。バックル付きのベルトにブーツを履き、マントをひるがえし、自由自在に空を飛ぶ。力持ちで、決して悪に屈しない。

 いでたちはそっくりですが、筋骨隆々で黒髪ハンサムで8頭身のスーパーマンと比べると、まんまる顔で3頭身、お腹の減った人にアンパンでできた顔をちぎってあげちゃうのでしばしば顔が欠けているアンパンマンは一見カッコ悪い。

 カッコ悪いスーパーマン=アンパンマン、というわけです。

 なぜそんなアンチ・スーパーマンをやなせたかしが生み出そうとしたのか。

 アンパンマン誕生以前、やなせたかしは、アメリカが生んだスーパーマンに対する複雑な思いを、自身の作品で披露していました。最初にそれが窺えるのが『まんが学校 だれでもかけるまんが入門』(やなせたかしと立川談志の共著、三一書房、1966)です。この『まんが学校』の中で、やなせたかしは、「スーパーマン」をどのように評しているか。

「『スーパー・マン』という魅力的な主人公を創作したことは確かに偉大なことだと思います」
「スーパーマンものというひとつのジャンルをつくってしまったほど大きな影響力を、その後のコミック界にあたえています」
「現在日本でつくられている多くのテレビまんがも、その変型、亜流であるものがずいぶんあります」

 このように日本の漫画やアニメへの影響力の大きさをはっきりと記している一方で、キャラクターの設定については辛辣です。

「主人公はたいてい、白昼そのままでは絶対に外を歩けない、まったく異様な趣味の悪いスタイルをしていて、サーカスの芸人のような、ピッチリしたタイツ姿で、恥かしくもなく正義のためのバカげた戦いをします」

 こう記した上で、やなせたかしは、スーパーマンがなぜこれほどまでに受けるのか、アメリカはもちろん日本でも受けるのか、その点について目を逸らしていません。自分が好きかどうか、とは別に、スーパーマンにはアメリカでも日本でもたくさんのお客さんがついている。その点に関して、やなせたかしは敬意を払っています。

「超能力をもった主人公は、いつも迫害されていてまったく心ぼそい存在であるわれわれ人間にとっては、永遠の夢なのでしょうね」

 この「永遠の夢」に対する自分なりの解答が、アンパンマンだったのでしょう。アンパンマンは、「俗悪で暴力的で自己陶酔的」であると同時に「たくさんの人に人気のある」スーパーマンの否定と肯定を織り込んだキャラクターなのです。やなせたかしは、強く意識してそんなキャラクターを造形しました。

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