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【兵庫・明石 中友酒店】朝から飲める釣り好き憩いの場 潮風を感じながらの釣り談義に笑顔がはじける

 山陽電鉄の西江井ヶ島駅から海に向かって徒歩10分ほど。住宅街の一角にある『中友酒店』は、朝9時から飲める角打ちの店だ。ここ明石界隈では、漁師が海から戻ると朝から一杯やる文化が根付いており、その風土がこの店にも息づいている。

 2代目店主の今井拓次さん(54歳)も父が愛していた形見の船を受け継ぎ、毎朝、沖に出るという。「ラジオ体操代わりの習慣です」と日に灼けた顔に白い歯を見せて笑う。

よく灼けた笑顔は釣り好きの勲章だ

よく灼けた笑顔は釣り好きの勲章だ

 中友酒店は昭和52年の創業。その開業には町の歴史が関係している。ここ江井ヶ島の土は良質な粘土に恵まれ、かつては瓦の生産が盛んな地域だった。

 この地で一族は「中友明石陶園」という焼き物工場を営んでいたが、昭和30年をピークに、すり鉢や土管の生産量が減少。先代が工場を閉める決断をして、酒販業に鞍替えしたのだ。そのため店名には今も「中友」が残っている。町の人々は親しみを込めて「お酒屋(おさかや)さん」と呼ぶが、古くからの常連の中には、愛着を込めて「すり鉢屋」と呼ぶ人もいる。

 店内は大きく2つのゾーンに分かれていて、大人たちが立ち飲みを楽しむ一角の反対側は駄菓子屋になっている。子どもたちにとっても憩いのお店であり、老若男女、町の人々が気兼ねなく立ち寄れるサロンのような役割を、長らく果たしてきたのだろう。

老いも若きもここでは等しく友達だ

老いも若きもここでは等しく友達だ

 店主の拓次さんは外商で走り回っていることが多いため、店の切り盛りは母の悦子さんと妻の由子さんが担当。「朝から開けているので、朝晩2回お越しになる方もいますよ。釣り好きの方の憩いの場です」(由子さん)。「みなさん、のんびりと魚の話ばっかりや。美味しい魚を食べて育つから、魚の気持ちがわかるねんて。だから明石は釣り上手が育つんとちゃいますかね」(悦子さん)。

2代目店主の今井拓次さん(中央)、母の悦子さん(右)、妻の由子さん。柔和な笑顔が客を出迎える

2代目店主の今井拓次さん(中央)、母の悦子さん(右)、妻の由子さん。柔和な笑顔が客を出迎える

“自治会長”というニックネームで呼ばれる年長の常連が「オレは明石生まれの明石育ち。気候もええ、食べ物はうまい、人は優しい。ここはええとこ過ぎて、他に行くとこないで」とうまそうに盃を傾ける。「かれこれ40年はこの店で飲んできたから、ここに足が向くのはもう癖みたいなもんや」と言うと目尻に笑いジワが刻まれた。

 隣では、「この店で常連ゆうたら15人ほどおるけど、みな職種も年齢も違うんです。不思議なことにバラバラや。酒と釣りでつながった仲間やな。酒と釣りは人をつなげるねんな」と60代の男性が語る。「本職の魚屋さんや、海苔屋さんも飲みに来るで。みっちゃん(拓次さんの父)が時々船を出して主催していた釣行の仲間でもあるしな」と別の60代が続ける。

「この辺りは一年を通して魚種が多いけど、有名なのはタコとベラやな。魚種も多けりゃ、人間の職種も多い一帯ということや」と70代がまぜっかえして、みなが笑った。
 誰もが明るく健康そうだ。そして、釣り談義はたしかに止まらない。

酒肴をつまみながら軽やかに話が弾む

酒肴をつまみながら軽やかに話が弾む

「この店ではよく『惜しい! さっきまで○○さん、おったのに』となるなぁ。すぐそばをすれ違いながら飲むのが、角打ちの面白さやな」と78歳の古株が言うと、「人も魚も、勘を頼りに出会うのがええやん」と横から合いの手が入る。

 今夕も、なじみの顔が揃ったところで焼酎ハイボールで乾杯だ。

「潮風の中、日が高いうちに友と飲むのはひとしおや。こいつはサッパリして美味いねん!!」  

焼酎ハイボールの炭酸が一仕事を終えた体にしみる

焼酎ハイボールの炭酸が一仕事を終えた体にしみる

■中友酒店

【住所】兵庫県明石市大久保町西島1041
【電話】078-946-0012
【営業時間】9~19時 水曜休。焼酎ハイボール320円、ビール大びん460円、いかフライ110円、やきとり缶220円、柿ピー60円

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