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糸リフトや注入後に違和感、美容施術の返金トラブルを国民生活センターが公表、220万円契約の即日施術で症状が発生、裁判所での民事調停に委ねる形に

美容医療に関連する施術後の返金トラブルが頻発している(写真/イメージマート)

美容医療に関連する施術後の返金トラブルが頻発している(写真/イメージマート)

 国民生活センターが2025年7月に、美容医療に関連する施術後の返金トラブルの経緯を公開した。

 美容施術を検討する際には、万が一トラブルに陥った場合の対応について、あらかじめ知識を得ておくことが重要である。

施術後の症状などがトラブルに発展

・ADR制度の概要:国民生活センターの「紛争解決委員会」では、裁判外紛争解決手続(ADR)を通じて消費者トラブルを処理しており、重要事例は公表されている。
・術後の問題と違和感:糸リフト後に違和感が生じ、修正対応がされたが、事前説明にないリスクや制限事項(例:うつぶせ寝不可)にAさんは不満を持った。
・調停への移行:クリニックがADRへの協力を拒否し、簡易裁判所へ民事調停を申立。Aさんもこれに応じ、ADR手続は終了となった。

 国民生活センターは「紛争解決委員会」と呼ばれる組織を持ち、この中で消費者が巻き込まれたトラブルを解決する取り組みを続けている。これは「ADR(裁判外紛争解決手続)」と呼ばれ、裁判とは異なる形でトラブルを解決する制度となる。同センターでは、ADRで対応したトラブルのうち、重要なケースを公表しており、2025年7月に仲介手続きを行った事例を新たに公表した。

 その中に含まれていたのが、美容手術費の返金をめぐるトラブルだ。

 報告によると、今回の事案では、施術希望者(以下、Aさん)が2024年3月上旬、クリニックのウェブサイトで「小鼻縮小注射約1万円~小鼻縮小約20万円」と宣伝されているのを見て、無料カウンセリングを申し込んだことから始まる。

 Aさんが3月下旬にカウンセリングを受けると、カウンセラーから加齢で鼻が大きくなると説明された上で、ヒアルロン酸注入やボトックス注射、糸リフトを含む施術プランが提示された。Aさんが中間のプランを選ぶと、医師が登場し、おでこのヒアルロン酸と鼻メッシュ、脂肪溶解注射などが追加され、総額は300万円を超える見積もりとなった。

 その後、カウンセラーから100万円以上の値引きが提案され、「一生ものなのでローンありきで考えてほしい」と「執拗に勧誘された」という。クリニックからは、「鼻は半永久的、糸リフトはマイナス7歳になって徐々に戻るが元通りにはならない」と説明を受けて、Aさんは施術を決意。

 後日の施術を希望したところ、当日でなければこの価格ではできないという話になり、約220万円の契約を結び、クレジットカードと医療ローンで支払いを行った。ところが、施術後に、糸リフトに違和感を覚え、医師に相談したところ「筋肉がないので仕方がない」と言われ、抗議の結果として修正となった。

 また、施術後に渡された注意事項には「うつぶせで寝ることができない」とあり、接骨院に通っていたAさんは事前に知っていれば施術を受けなかったと主張した。翌日、顔の表情が動かない、あごがゆがむ、鼻の穴に左右差があるなどの症状が現れた。Aさんにとっては、事前に聞いていた軽い顔のつっぱりという状態と思えなかった。

 さらに翌日クリニックに連絡したところ、2週間後の脂肪溶解注射の際に診察すると言われた。脂肪溶解注射を受け、「しばらくするとなじむ」と言われた。このときになって初めて、施術前には説明されていなかったリスクについて説明を受けた。

 Aさんは消費生活センターに相談し、契約解除通知や支払い停止の抗弁書を送付したが、脂肪溶解注射のみがクーリング・オフされ、他の請求は取り消されなかった。

 結局、Aさんが希望したADRでの解決をクリニックは協力する意思がないと伝え、クリニックは簡易裁判所に民事調停を申し立てた。クリニックはAさんの主張は受け入れられないとの考えを持っている。Aさんも、民事調停(注:裁判所で行う話し合いによる和解に向けた手続のこと)に応じることとなり、ADRでの手続は修了したという。

解約や返金をめぐるトラブルは少なくない

・美容医療における返金・解約トラブル:施術後の解約や返金をめぐるトラブルは一般的に発生しており、十分な注意が必要とされている。
・解約相談の件数:消費者庁によると、毎年3万件以上の解約に関する相談が寄せられ、美容関連では2022年度に脱毛エステで890件、医療サービスで492件が報告された。
・即日施術のリスク:カウンセリング当日に即日施術を勧めるケースは一般的だが、トラブルの原因になりやすく、国のガイドラインでも回避が求められている。

 施術を受けた側とクリニックとの間で、解約や返金をめぐるトラブルは一般的に発生しており、注意が必要である。ヒフコNEWSでも、同様にADRの事例の中から、鼻の美容外科手術での解約をめぐるトラブルやアートメイクの解約をめぐるトラブルも取り上げている。

 その際にも紹介したが、消費者庁によると、美容医療に限らず、解約に関する相談は毎年3万件以上に上る。美容関連では、2022年度に脱毛エステが890件、医療サービスが492件だった。

 今回伝えた美容施術の返金の問題もそうだが、カウンセリングの当日に即日施術を促されてそのまま施術をしてしまうのは、一般的に行われているものの、トラブルにつながりやすい側面があることは否めない。これは、国も注意喚起しており、ガイドラインでは避けるように求めている。十分に検討をする時間を設けたり、セカンドオピニオンを得たりすることは可能であるので、注意すべきである。

 キャンセルポリシーも確認が必要だろう。今後美容医療に関して業界ガイドラインが作られる予定であり、その内容は今後明らかになるが、こうした手続きの透明性についてのルールも求められている。

参考文献

国民生活センターADRの実施状況と結果概要について(令和7年度第1回)

「鼻の美容整形」キャンセル料トラブル、4カ月前でも20%請求は妥当?「平均的損害」を超えると考えられた理由とは、国民生活センターがクリニックと施術希望者のトラブル経緯を公表

アートメイク解約でトラブル、解決に至らず決裂、即日施術など教訓も、クリニックは訴訟の準備と説明、国民生活センターがトラブルの経緯を公表

【プロフィール】
星良孝/ヒフコNEWS編集長。ステラ・メディックス代表、獣医師、ジャーナリスト。東京大学農学部獣医学課程を卒業後、日本経済新聞社グループの日経BPで「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集者、記者を務めた後、医療ポータルサイト最大手のエムスリーなどを経て、2017年にステラ・メディックス設立。医学会や研究会での講演活動のほか、報道メディアやYouTube『ステラチャンネル』などでも継続的にヘルスケア関連情報の執筆や情報発信を続けている。獣医師の資格を保有しており、専門性の高い情報にも対応できる。

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