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【書評】『その一言で信用を失うあぶない日本語』 誠実さに裏打ちされた「言い回し回避」の技術

『その一言で信用を失うあぶない日本語 頭がいい人、悪い人の言葉の選び方』/樋口裕一・著

『その一言で信用を失うあぶない日本語 頭がいい人、悪い人の言葉の選び方』/樋口裕一・著

【書評】『その一言で信用を失うあぶない日本語 頭がいい人、悪い人の言葉の選び方』/樋口裕一・著/青春新書INTELLIGENCE/1188円
【評者】津村記久子(小説家)

 人類は、インターネットの発見とSNSの普及によって、それ以前の生活よりも失言の機会を爆増させた。「失言した」ということが知れ渡った人はほぼ有名人で、一般人の失言はそれほど問題にはされていなかったと思う。しかしSNS。有名でもない人たちの失言がすぐに拾われ、「あの物言いに傷付く」「失礼だと思っていた」という失言の情報そのものも共有されまくる。このようにして、失言した人の数だけでなく、失言の範囲も拡大している。

 本書は、言わないほうがよい日本語表現を「コンプラ違反につながる日本語」「思考停止な日本語」などの四つの章に分類して、三十の項でそれぞれの言い回しをどのように回避するか、ということを説明してくれる本だ。項の最後には三問ずつ問題がついていて、楽しく考え込めるようになっている。

〈差別やジェンダーハラスメントにつながる表現〉で、それぞれ戦闘機の好きな女の子と栄養士を目指している男の子について、「戦闘機の好きな女の子なんですね」「栄養士を目指している男の子なんですね」と己の所感をつべこべ付け加えない直球の表現を勧めることにとても感心した。

 そうなのよ。当事者以外の所感とかどうでもいいのよ。その後に示される「肯定的な表現」も参考になると思う。そして〈ステレオタイプな言葉〉での「みんな持っている」「みんな言っている」の「みんな」についての「〈みんな〉という言葉を使うと話に活気が出る」という指摘については、言い当てられたという気がした。

 著者は誇張としてなら罪がないとしながらも「〈みんな〉〈一人残らず〉こそが、差別の温床なのだ」と警告する。上手なクレームの入れ方や、険のないプライバシーの尋ね方など、本書で紹介される技術は、表面的なライフハックとは異なる誠実さに裏打ちされている。

※週刊ポスト2025年8月1日号

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