週刊ポストの名物企画でもあった「ONK座談会」2003年開催時のスリーショット(撮影/山崎力夫)
プロ野球界の不滅の記録として燦然と輝く「巨人の9年連続日本一」。1965年から1973年にかけて達成された偉業の中心には、今年6月3日に亡くなった長嶋茂雄氏の存在があった。『巨人V9の真実』(小学館新書)著者・鵜飼克郎氏(ジャーナリスト)は、長嶋氏を含む多くのV9戦士、巨人の連覇を阻止せんと闘志を燃やしたライバルたちを取材してきた。2019年に亡くなった400勝投手・金田正一氏が語っていた長嶋氏の「すごさ」について、鵜飼氏がレポートする。
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所属していた国鉄では天皇と呼ばれ、巨人キラーだった金田正一氏。1965年、すでに通算353勝をあげていた金田氏は10年選手制度で巨人に移籍し、V9はそこから始まった。その金田氏は、移籍当初のことをこう振り返っていた。
「いざ同じチームになって最初のキャンプに参加した時、長嶋の体があまりにも硬くて驚いた。当時あいつは30歳になる直前だったが、このままだともう野球人生は終わるだろうと思ったほどだ。それぐらい柔軟性がなく、体からにじみ出てくる活気がなかった。
ワシは汗をびっしょりかくぐらい準備運動をやり、アクロバティックな体勢で柔軟体操もやる。長嶋はそれを見て“カネさん、その柔らかさは生まれつきなんでしょう”なんていうから笑ったよ。だからワシは“シゲ、お前は何年かけて体をそこまで硬くしたんだ、ワシは赤ん坊の頃から体の手入れをして柔軟さを維持してきた”と教えてやった。すると長嶋は、“やればできるんですか”と目を丸くして訊いてきたんだ。この言葉は今でも忘れられない。長嶋が初めてワシに使った敬語だったしな(笑い)」