「短歌はプロとアマの境界が非常にあいまい」
本では、SNSの「クソリプ(くだらない、攻撃的な返信)」や、話題のAIによる短歌ともじっくり向き合い、それらの本質を見極めている。
物事を見るときの肯定的な姿勢が俵さんの持ち味で、歌にもそれは表れている。そのことに共感する人は多いが、批判されることもあるそうだ。
「『サラダ記念日』も、『批判精神が足りない』って言われましたね。100%いいこととか、100%悪い人なんてたぶんないと思うし、どうせだったら私はその人のいいところを見つけたいし、物事のいい面を受け止めたい。あるとき、息子に『もうちょっと否定的に見たほうがいいのかな』と聞いたら、『いや、それがおかんの芸風だから』って言われたんです。『芸風かあ。芸風ならそれを突き詰めたほうがいいかも』ってすごくスッキリしました」
小さいころから、一緒に言葉遊びを楽しみ、今では母に負けない言葉好きに育った息子さんとのやり取りも、本に出てきて面白い。俵さんがラップに興味を持ったのも息子さんの影響だという。
「言葉を観察するうえで、若い人が身近にいるというのはすごくいいんですよね。20代の人とじっくり話す機会ってなかなかないじゃないですか。息子はどちらかというと孫に近い歳なので、これも高齢出産のいいところのひとつです」
結社の歌会だけでなく、歌舞伎町のホストの歌会やアイドルの歌会にも出席する。短歌のプロというより、同じ歌をつくる仲間として自然に向き合うのが俵さんのすごいところだ。
「短歌ってプロとアマの境界が非常にあいまいなんです。アマチュアであってもホームランを打てるジャンルなんですね。野球では、草野球の人が大谷からホームランとか絶対打てないじゃないですか。でも打てるんですよ、歌は。その人の人生の元手がかかっていることが必要条件にはなるんですけど、それが短歌の定型と出会って、すごい歌が生まれることがある。だから私は、プロとかアマとかは気にせず歌に向き合うし、短歌に興味があると言われたら喜んで駆けつけます」
【プロフィール】
俵万智(たわら・まち)/1962年大阪府生まれ。歌人。早稲田大学第一文学部卒業。学生時代に佐佐木幸綱氏の影響を受け、短歌を始める。卒業後4年間、国語教諭として公立高校に勤務。1987年に第一歌集『サラダ記念日』を出版し、大ベストセラーに。翌年、同歌集で現代歌人協会賞を受賞。1996年より読売歌壇選者。2021年に『未来のサイズ』で迢空賞を受賞。評論集『愛する源氏物語』で紫式部文学賞を受賞したほか、著書、受賞歴は多数。2023年、紫綬褒章を受章。
取材・構成/佐久間文子
※女性セブン2025年8月14日号