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俵万智さん、最新論考集『生きる言葉』インタビュー「どうせだったら私はその人のいいところを見つけたいし、物事のいい面を受け止めたい」

俵万智さん/『生きる言葉』/新潮新書

俵万智さん/『生きる言葉』/新潮新書

【著者インタビュー】俵万智さん/『生きる言葉』/新潮新書/1034円

【本の内容】
《「個人の言葉の背景を理解してもらえる環境」ではないところで、多くのコミュニケーションをしていかねばならないのが現代社会だ》(「はじめに」より)。そして俵さんはこう記す。《便利で、やっかいな時代を、私たちは生きている》。子育ての中で感じたことから、歌会や各界の表現者との会話の中でのエピソード、AIやSNS、はたまた『光る君へ』を観て感じたことまで、様々なシーンの言葉を取り上げ考察した、書き下ろし論考集。

「私は言葉のオタクで変態。『推し』のためなら遠征も」

『生きる言葉』は、「言葉のオタク」だという俵さんの、言葉への思いがあふれる本である。

 もともとは、「俵万智という生き方」をテーマにした語り下ろしの新書になるはずだったそう。

「何度もインタビューしてもらってゲラに手を入れていると、言葉のところはどんどん膨らんで、生き方のところはどんどん削ってしまう。いま自分は、言葉についてすごく書きたいんだと気づいて、申し訳ないけど一度仕切り直して、言葉について初めから自分で書くということにさせてもらいました」

 歌人である俵さんが言葉に関心がある、というのはある意味、当然かもしれないが、この本を読むと、その度を越した情熱、オタクぶりが伝わってくる。

「そうなの! オタクで変態なんです。書いてても、めちゃくちゃ楽しくて。いま『推し活』ってよく言いますけど、私の『推し』は言葉なんだなってわかりました」

 面白い言葉に触れる機会を逃さず、軽やかなフットワークでいろんなところに出向き、ラッパーや言語学者らと対話をするのも、「推し活」と思えばわかりやすい。

「オタクの人も、結構、遠征しますよね。あれと同じです。好きなものがあるっていうのは、自分の人生の行動範囲を広げてくれます」

 14歳のとき大阪から福井へ引っ越したのが、言葉に関心を持つきっかけだったという。

「それまでは自分が大阪弁をしゃべっていることすら気づいてなかったのが、福井で生きていくには福井弁を覚えないと友だちもできない。英語の時間に『大阪くさい英語だな』と先生に言われたり、逆に私が福井弁を話すと友だちがすごく喜んでくれたり、言葉は人をつなぐものだというのを実感しました」

 短歌と出会ったのは大学生のときで、第一歌集の『サラダ記念日』が大ベストセラーになった。俵さんの「推し活」のベースにはいつも短歌がある。

「短歌はほんとに短い言葉なので、言葉に敏感でなくてはいけないんですけど、短い言葉だからこそ、言葉を信頼していないとつくれない詩の形でもあります。さらに言うと、読者を信じていないとやってられないところもある。そういう言葉への信頼と興味が、自分の根っこのところにずっとありますね」

 信頼しつつ、言葉を過信しすぎることもない。

「言葉は万能ではないし、思いと言葉、現実と言葉にはズレがあるってことは、常に心のどこかにとどめておかないといけない。そういうことも含めて言葉なんだと思います」

 20代から表現の第一線に立ち続け、さまざまなジャンルの表現者と出会ってきた。短歌以外にも、演劇のつかこうへい、野田秀樹、詩人の谷川俊太郎らとの出会いも本には描かれている。

「つかさんは結構、気難しいことで有名ですが、私はめっちゃ懐いてました。人見知りしないのは私の特技かもしれません」

 谷川さんは、初対面のとき俵さんに「あなたは現代詩の敵です」と言ったそうだ。

「若くて、チヤホヤされがちでしたから、笑顔で怖いことを言う谷川俊太郎、めっちゃカッコイイ、と思ったんです。取るに足らない存在だったら『敵』とは言われないし。『私の敵』とは言っていないわけだし」

 そこで臆せず、相手の言葉の真意を正確にとらえようとするところがまさに「生きる言葉」のお手本のようである。

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