1945年8月20日、満洲のハルビン市内を進むソ連兵(写真=SPUTNIK/時事通信フォト)
麻田:最後に改めて日ソ戦争の教訓をお話しすると、沖縄戦と同じく、住民を守る戦いができず、むしろ住民を巻き込んでいったことが挙げられます。今、中国を念頭に置いた防衛力の「南西シフト」が注目されますが、戦術の議論と並行して、いかに住民を守るかを考える必要があります。
小泉:それから北方領土問題も重要ですが、私は返還のために対露制裁を緩める考え方は本末転倒だと思っています。現在、ロシアは防衛線としてこの海域の軍事的価値を高めつつあるからです。ロシア海軍はオホーツク海に弾道ミサイル搭載型原子力潜水艦を配備することで要塞と化しています。
麻田:北方領土は1855年の日露通好条約で国境が定められて以降、敗戦まで常に日本領でした。ヤルタ会談で千島列島をソ連に「引き渡す」ことをアメリカが認めたわけですが、それはソ連の対日参戦をアメリカも望んだからです。大戦中の日本のように国際社会で孤立することは今後も絶対に避けねばなりません。
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【プロフィール】
麻田雅文(あさだ・まさふみ)/1980年、東京都生まれ。成城大学法学部教授。専門は東アジア国際関係史。『日ソ戦争』にて読売・吉野作造賞受賞。他に『シベリア出兵』など著書多数。
小泉悠(こいずみ・ゆう)/1982年、千葉県生まれ。東京大学先端科学技術研究センター准教授、軍事評論家。専門はロシアの軍事、安全保障。『「帝国」ロシアの地政学』『ウクライナ戦争』『オホーツク核要塞』など著書多数。
※週刊ポスト2025年8月8日号