逮捕と塀の中を繰り返した田代氏
最初の「1回」を踏みとどまるために
──今、若い世代で「生きづらさ」からオーバードーズ(OD)してしまう人が増えています。そういった人たちに思うことはありますか。
傷つきたくないのはわかるよ。でも薬に手を出そうと考える人に一つだけ言えるのは、どんなものでも最初の1回がやばいということ。その1回が取り返しつかないことになるということを、俺は経験をもって言える。
──最初の1回を、なんとか踏みとどまるためには?
ふとした言葉が救ってくれる部分はあると思う。いい映画を見た時、いい本を読んだ時、いい詩を読んだ時、いい歌を聞いた時、いい景色を見た時。何気ないところで触れた言葉や人に救われることがある。その感性を大切にするべきだし、同じ価値観の人と過ごしたらいいと思う。
──同じ価値観の人を見つけるのが難しい。
ある本で読んだんだけど、人間はみんな半円なんだって。残りの自分の半円を探してさまよっている。でも、なかなか同じ半円はないんだよ。ただ、人間は不思議なもので、ピッタリ同じ半円でなくても、少しなら調整しようとする。
とはいえ、それに無理が生じると割れてしまう。同じ音楽、同じ風景、同じ映画、そういったものに触れた時、「これいいよね」って言える人とは価値観が合うということだね。
今、ドラッグやODをする人たちの周りには、たぶん使ってる人がいるんだよ。「もっといいのあるよ」「え、やったことないの?」とかっていう世界だから。やめ方を教えてくれる人は、使ってる人の中にはいない。だって俺は、ダルクで初めてやめ方を教わったからね。“逃げ”から何かに手を出すんじゃなくて、自分の心に取り入れたいものを探すんだ。
──新宿の一角に集まる、「トー横キッズ」と言われる人たちもいます。
いつの時代も不良はいた。俺たちの頃もシンナーやってる子たちや、体を売る子はいたんだよね。何か世の中に不満があったり、生きづらさを感じていたりしているから、反発して不良になってきた。
40年前と今とで、生きづらさの違いがあるとしたら、不良でも俺たちは団結してた。友情があって、仲間がいた。それが今の人たちは心を通わせない。本当の友達ではない人たちと集まってつるんでるだけで、本当の絆の中にいないというか……その点は、違うと思う。俺たちは「孤独」だったけど、今は「孤立」のような気がする。
孤独って自分の心が感じることであって、でも大丈夫だよって言ってくれる仲間がいたら少し救われる。孤立するとそういう人たちがいないでしょ。それを正してくれる人に出会ってくれたらいいなと思うね。
(第3回に続く。第1回を読む)