「習近平総書記と新疆の各民族人民は心と心が繋がっている」と書かれた看板(撮影/西谷格)
収容所を示す「学習するところ」という隠語
ウイグル族の人々と何とか普通に会話がしたいと思い、私は新疆南部の小都市を回った。ヤルカンドという黄砂の多い街で、ひょんなことから中年女性の自宅にお邪魔すると、冷たいスイカを振る舞われた。続いて、彼女は私の身の上を問わずこう語った。
「夫は5年前に『学習するところ』に連れて行かれ、その40日後に心臓病を悪化させて亡くなりました。詳しい状況は今も分かりません」
強制収容所は現地では「学習するところ(学習的地方)」との隠語で密やかに語られていた。女性の住む村では2018年に「重要な会議があるから全員出席するように」と警察から通達があり、ビルの一室に集められた男性たちが、集団で車両に連行されたという。
これまで欧米や日本で伝えられてきた強制収容に関する証言は、どれも中国政府への非難や告発を目的としていたが、私が話を聞いた市井の人々は、決してそうではない。淡々とした口調に、強い説得力があった。
(後編に続く)
【プロフィール】
西谷格(にしたに・ただす)/1981年、神奈川県出身。ジャーナリスト。早大卒業後、地方紙記者を経てフリーランスとして活動。2009年に上海に移住、2015年まで現地から中国の現状をレポートした。現在は大分県別府市在住。
西谷格氏による新刊『一九八四+四〇 ウイグル潜行』の刊行を記念し、8月23日、本屋B&Bにてルポライター安田峰俊氏との対談イベント「潜入ライター、“AI監視”ウイグルに迷い込む」が開催される。詳細は→ https://bookandbeer.com/event/20250823_ugi/
※週刊ポスト2025年8月29日・9月5日号