「習近平総書記と新疆の各民族人民は心と心が繋がっている」と書かれた看板(撮影/西谷格)
日中関係に緊張が走るなか、中国政府による強制労働や人権侵害の疑いがある新疆ウイグル自治区の統治にも国際社会から厳しい目が向けられている。統制下では何が起きているのか。『一九八四+四〇 ウイグル潜行』を上梓したジャーナリストの西谷格氏は、現地で想像を絶する困難に直面した。西谷氏がレポートする。【前後編の後編。前編から読む】
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新疆はどこへ行っても警察やパトカーの数が尋常でないほど多く、市街地を歩いているとおよそ5分おきに遭遇した。機動隊や軍隊並みの重装備も珍しくなく、装甲車や自動小銃も投入されていた。
滞在中は、警察から数えきれないほど取り調べを受けた。空港の詰め所に連行され、あるいは深夜1時半にホテルのドアをノックされた。いずれもスマホの写真フォルダを見せて、今後の渡航先を丁寧に伝えれば、短時間で調べは終わった。思ったより大丈夫そうだと気楽に考えた私は、新疆から国境を越えて隣国カザフスタンへ抜けようとした。だが、ここで大変な事態に陥った。
出国審査の列でパスポートを提示すると警察に足止めされ、厳重な荷物検査を受けた。そして、警察が私のスマホの写真フォルダを隅々までチェックすると、日本で撮影した「白紙革命(反中デモ)」の写真が見つかったのだ。
「この写真を持つことは、中国では違法だぞ」
すぐに別室に通され、ガラス張りの留置所に入れられた。ドアの向こうでは、監視員がボディカメラをこちらに向け、常時撮影している。
「大丈夫だ。すぐ終わる」
そう言われてから3時間ほどが経過し、取り調べ室へと連れていかれた。
大きな事務机の前には「タイガーチェア」と呼ばれる拷問具が置かれていた。四肢を金属リングで固定し、身動きを奪う道具だ。幸い、私はその隣に置かれた事務椅子に座るよう命じられたが、尋問の最中には、警察がこれ見よがしにチェアの足輪を開くこともあった。
「お前には『国家安全危害罪』の疑いがある。最高刑は無期懲役だ」
耳を疑うような罪名を告げられ、長時間の取り調べが始まった。尋問の合間は放置される時間も長く、留置所のベンチに腰掛けながら死をも覚悟した。取り調べは、深夜から明け方にかけて苛烈を極めた。
「本当のことを言え。もし嘘を吐いたら、これだぞ!」
そう言いながら、黒いジャケット姿のベテラン刑事は手のひらを振り上げた。「お前、この紙を食えるよなあ」とA4用紙を口元に近づけて来ることもあった。