国際情報
ルポ・ウイグル潜行

《新疆ウイグル自治区潜入ルポ》日本で撮影した反中デモの写真が見つかりジャーナリストがスパイの疑いで拘束、拷問具が置かれた取り調べ室で睡眠禁止の尋問

「習近平総書記と新疆の各民族人民は心と心が繋がっている」と書かれた看板(撮影/西谷格)

「習近平総書記と新疆の各民族人民は心と心が繋がっている」と書かれた看板(撮影/西谷格)

 日中関係に緊張が走るなか、中国政府による強制労働や人権侵害の疑いがある新疆ウイグル自治区の統治にも国際社会から厳しい目が向けられている。統制下では何が起きているのか。『一九八四+四〇 ウイグル潜行』を上梓したジャーナリストの西谷格氏は、現地で想像を絶する困難に直面した。西谷氏がレポートする。【前後編の後編。前編から読む

 * * *
 新疆はどこへ行っても警察やパトカーの数が尋常でないほど多く、市街地を歩いているとおよそ5分おきに遭遇した。機動隊や軍隊並みの重装備も珍しくなく、装甲車や自動小銃も投入されていた。

 滞在中は、警察から数えきれないほど取り調べを受けた。空港の詰め所に連行され、あるいは深夜1時半にホテルのドアをノックされた。いずれもスマホの写真フォルダを見せて、今後の渡航先を丁寧に伝えれば、短時間で調べは終わった。思ったより大丈夫そうだと気楽に考えた私は、新疆から国境を越えて隣国カザフスタンへ抜けようとした。だが、ここで大変な事態に陥った。

 出国審査の列でパスポートを提示すると警察に足止めされ、厳重な荷物検査を受けた。そして、警察が私のスマホの写真フォルダを隅々までチェックすると、日本で撮影した「白紙革命(反中デモ)」の写真が見つかったのだ。

「この写真を持つことは、中国では違法だぞ」

 すぐに別室に通され、ガラス張りの留置所に入れられた。ドアの向こうでは、監視員がボディカメラをこちらに向け、常時撮影している。

「大丈夫だ。すぐ終わる」

 そう言われてから3時間ほどが経過し、取り調べ室へと連れていかれた。

 大きな事務机の前には「タイガーチェア」と呼ばれる拷問具が置かれていた。四肢を金属リングで固定し、身動きを奪う道具だ。幸い、私はその隣に置かれた事務椅子に座るよう命じられたが、尋問の最中には、警察がこれ見よがしにチェアの足輪を開くこともあった。

「お前には『国家安全危害罪』の疑いがある。最高刑は無期懲役だ」

 耳を疑うような罪名を告げられ、長時間の取り調べが始まった。尋問の合間は放置される時間も長く、留置所のベンチに腰掛けながら死をも覚悟した。取り調べは、深夜から明け方にかけて苛烈を極めた。

「本当のことを言え。もし嘘を吐いたら、これだぞ!」

 そう言いながら、黒いジャケット姿のベテラン刑事は手のひらを振り上げた。「お前、この紙を食えるよなあ」とA4用紙を口元に近づけて来ることもあった。

関連キーワード

関連記事

トピックス

娘たちとの関係に悩まれる紀子さま(2025年6月、東京・港区。撮影/JMPA)
《眞子さんは出席拒否の見込み》紀子さま、悠仁さま成年式を控えて深まる憂慮 寄り添い合う雅子さまと愛子さまの姿に“焦り”が募る状況、“30度”への違和感指摘する声も
女性セブン
電撃結婚を発表したカズレーザー(左)と二階堂ふみ
「以前と比べて体重が減少…」電撃結婚のカズレーザー、「野菜嫌い」公言の偏食ぶりに変化 「ペスカタリアン」二階堂ふみの影響で健康的な食生活に様変わりか
週刊ポスト
違法薬物を所持したとして不動産投資会社「レーサム」の創業者で元会長の田中剛容疑者が逮捕された
「ローションに溶かして…」レーサム元会長が法廷で語った“薬物漬けパーティー”のきっかけ「ホテルに呼んだ女性に勧められた」【懲役2年、執行猶予4年】
NEWSポストセブン
ヒグマの親子のイメージ(時事通信)
「なぜ熊を殺した」「行くのが間違い」役場に抗議100件…地元猟友会は「人を襲うのは稀」も対策を求める《羅臼岳ヒグマ死亡事故》
NEWSポストセブン
2013年に結婚した北島康介と音楽ユニット「girl next door」の千紗
《北島康介に不倫報道》元ガルネク・千紗「アラフォーでも美ボディ」スタートさせていた“第2の人生”…最中で起きた波紋
NEWSポストセブン
駒大苫小牧との決勝再試合で力投する早稲田実業の斎藤佑樹投手(2006年/時事通信フォト)
【甲子園・完投エース列伝】早実・斎藤佑樹「甲子園最多記録948球」直後に語った「不思議とそれだけの球数を投げた疲労感はない」、集中力の源は伝統校ならではの校風か
週刊ポスト
音楽業界の頂点に君臨し続けるマドンナ(Instagramより)
〈やっと60代に見えたよ〉マドンナ(67)の“驚愕の激変”にファンが思わず安堵… 賛否を呼んだ“還暦越えの透け透けドレス”からの変化
NEWSポストセブン
反日映画「731」のポスターと、中国黒竜江省ハルビン市郊外の731部隊跡地に設置された石碑(時事通信フォト)
中国で“反日”映画が記録的大ヒット「赤ちゃんを地面に叩きつけ…旧日本軍による残虐行為を殊更に強調」、現地日本人は「何が起こりるかわからない恐怖」
NEWSポストセブン
石破茂・首相の退陣を求めているのは誰か(時事通信フォト)
自民党内で広がる“石破おろし”の陰で暗躍する旧安倍派4人衆 大臣手形をバラ撒いて多数派工作、次期政権の“入閣リスト”も流れる事態に
週刊ポスト
クマ外傷の専門書が出版された(画像はgetty image、右は中永氏提供)
《クマは鋭い爪と強い腕力で顔をえぐる》専門家が明かすクマ被害のあまりに壮絶な医療現場「顔面中央部を上唇にかけて剥ぎ取られ、鼻がとれた状態」
NEWSポストセブン
小島瑠璃子(時事通信フォト)
《亡き夫の“遺産”と向き合う》小島瑠璃子、サウナ事業を継ぎながら歩む「女性社長」「母」としての道…芸能界復帰にも“後ろ向きではない”との証言も
NEWSポストセブン
スキンヘッドで裸芸を得意とした井手らっきょさん
《僕、今は1人です》熊本移住7年の井手らっきょ(65)、長年連れ添った年上妻との離婚を告白「このまま何かあったら…」就寝時に不安になることも
NEWSポストセブン