被告が立てこもった、青木家の邸宅
左肩を掴んだまま、いきなりナイフで背部を突き刺し……
実家に戻ってからは家業の果樹園を手伝うなどしながら、趣味の狩猟のために猟銃免許を取得。猟銃も手に入れた。さらに中型バイクの免許を取得し、中型バイクも購入。その後、大型バイクの免許も取得し、バイクも手に入れた。その当時は地元の祭り保存会に参加する姿も見られ、家業の果樹園を任されて確定申告も行なっていたという。
趣味に精を出す生活のなかで、2017年には猟銃をさらに2丁買い足す。2019年には、のちにこの事件で使うことになるハーフライフル銃を所持するようになった。いっぽう、家業の手伝いも続けていた。2019年には父親が経営する軽井沢のジェラート店で製造を担当し、のちには二号店として中野市にオープンしたジェラート店では経営も手がけるようになった。しかし、人から悪口を言われるという妄想は続いていたようだ。
事件前年である2022年ごろ、青木被告は、夕方に家の前を散歩する2人の女性から「ぼっち」「キモい」と言われている妄想を抱くようになった。このとき、2人を殺そうと思ったが、果樹園の経営のことなどを考えて一旦は躊躇する。しかし、事件の7週間前である2023年4月には、インターネット通販で今回の凶器となったボウイナイフを購入。刃の長さが30.2センチメートルもあるそのボウイナイフが届くと、被告は刃の背を研ぎ、ダガーナイフのように両刃を鋭利な状態にした。その後、肩掛けベルトを装着し、自宅1階の物入れに収納していた。
事件当日の2023年5月25日。被告が庭で除草剤を撒いていたところ、いつもの2人が散歩をしているのを目撃する。これに激昂した被告は、殺害を実行することにした。掃き出し窓から家に体を入れ、手に取ったボウイナイフを肩にかけ、2人の前に立ちはだかった。そしていきなり2人のうち、竹内さんを刺して殺害。畑の中に逃げた村上さんも追いかけ、畑の中でナイフを刺して殺害した。
このとき、畑の中に、たまたま畑仕事をしていた住民の男性がいた。男性は村上さんが殺害される一部始終を見ていた。調書に、当時の様子をこう語っている。
「妻と畑仕事をしていると、北のほうから『助けて』という声が聞こえた。女性が全速力で走っており、その15メートルほど後ろを犯人が走っていた。女性は大声で『おじさん助けて!』と叫んでおり、躓きながらも四つん這いで段差を上がり、畑に入った。
すると犯人が追いつき女性の左肩を掴んだ。女性は振りほどこうと、前に進もうとするも、力で勝てなかったのか、立ち止まった(中略)。女性は体を前傾にして振りほどこうとしていたが、犯人は左手で左肩を掴んだまま、いきなりナイフで背部を突き刺して、さらにもう一度突き刺した。犯人が女性から手を離すと、女性は体を反転させるようにして仰向けに倒れた。
犯人はさらに女性の胸の辺りを一回突き刺した。その犯人の顔を見て、近所のマサノリだと気づいた」