逮捕後、移送される被告(時事通信フォト)
「ぼっち」「キモい」という声が聞こえるようになった
その男性は、犯人が青木被告だと気づくと「なんでこんな酷いことするんだ」と問いかけたが、被告は冷静な様子でこう言ったという。
「殺したいから殺した」
男性の調書によると、被告はその後「畑を出て自宅のある北のほうに歩いて行った」という。自分も刺されるのではと恐怖を抱きながらも警察に通報し、他の住民と救命活動を行なっていたところ、パトカーが到着。すると被告が今度は猟銃を持って現われ、パトカーに近づきながら銃口を向け、発砲したという。
青木被告は4人を殺害後、さらに駆けつけた私服警官2人のうち、ひとりに対して、猟銃を持ちながら追いかけるなどの行動をとっていた。もうひとりに対しては「警察官ですか?」と尋ねていた。警官は返答はせず、撃たれることはなかった。その後、自宅に立てこもっているなかで、母親から自首を勧められるが、被告は「絞首刑になる」と嫌がった。ならばと母親は“自害”を勧めたものの、被告が2度発砲した猟銃の弾は、どちらも自身に命中することはなかった。
対する弁護側は冒頭陳述で「事件当時、青木さんは統合失調症だった」と主張。事件までの被告の異様な行動を明らかにした。
弁護側冒頭陳述によると、青木被告は小~中学校の頃から人の目を見て話せず、高校入学後の1か月は電車通学をしていたが、その後は片道13キロの道のりを自転車で通学するようになった。大学入学後、寮に入ったが、寮生や同級生からの「ぼっち」「キモい」という声が聞こえるようになったことから、寮を出てアパート暮らしを始めた。
電車の乗客からも「ぼっち」「キモい」という声が聞こえるため、声を避けるために、実家への帰省の際は公共交通機関を使わず、自転車を使っていた。その頃、一人暮らしのアパートの部屋にカメラや盗聴器の存在を確信しており、携帯電話は持っているが電源を入れていなかった。そして大学3年生の夏。
「青木さんと連絡が取れなくなった両親がアパートを訪ねると、青木さんは青白く痩せこけており『監視カメラや盗聴器』のことを知らされた。青木さんは初めて両親に『自分の部屋での様子が世界に拡散されるネットいじめ』の被害を報告した」(弁護側冒頭陳述)
これを受けて両親は探偵にコンタクトを取り、青木被告の住んでいたアパート居室の監視カメラや盗聴器を探してもらうように依頼したが、発見には至らず、探偵からは「統合失調症かもしれない」と言われたという。
大学を中退させ、連れ帰った青木被告に対して両親は実家の家業である農業を手伝ってもらうことにした。徐々に以前のような笑顔が見られるようになったが、妄想は深かったようだ。
「2016年ごろ、青木さんの携帯電話の電源が入っていないので尋ねると『盗聴、盗撮されている。皆が自分を“ぼっち、ぼっち”と笑っている』と答えた。パーカーを着るとフードをかぶり、パソコンの内蔵カメラには目張りをしていた」(同)
父が経営していた軽井沢のジェラート店において製造を担当するようになってからも「客が見えないように製造エリアを段ボールで目隠し」し、中野市にオープンした二号店で働くようになってからも、同じように目隠しを施し「店舗のトイレは使わずに用便の際は必ず実家に戻っていた」という。
こうした行動は止むことはなく、さらには、「2022年8月には店舗で撮影していた人に『出てってくれ』と髪を引っ張ろうとした。『ニヤニヤして俺のこと見下していた』と話し、9月にはアルバイトに殴りかかり『ぼっちとバカにしただろ、殺すぞ』と怒鳴った」(同)という。