国内

《相次ぐヒグマによる死亡事故》元レンジャーが語った“共生神話のウソと現実”…「人の汗で安全が保たれていただけ」“車と人”にたとえられるクマと人間の関係

ヒグマ対策を担っていた元レンジャーが語る知床の現実(イメージ、時事通信フォト)

ヒグマ対策を担っていた元レンジャーが語る知床の現実(イメージ、時事通信フォト)

 北海道の福島町と羅臼岳で相次いだヒグマの襲撃による死亡事故。凄惨な被害に恐怖心を抱く人が多い中、現地でレンジャーとして日々、ヒグマと向き合う対策プロたちは何を思うのか。ノンフィクションライターの中村計氏が取材した。(文中敬称略)【前後編の前編】

 * * *
「これまで知床でクマとの大きな事故が起きなかったことの方が奇跡だったんです」

 知床でかつてヒグマ対策を担っていた元レンジャーは、過熱気味のヒグマ事故の報道に釘を刺すように言う。

 先月14日、羅臼岳の登山者がヒグマに襲われ、亡くなった。北海道が記録を公表している1962年以降、知床において観光客がヒグマとの接触事故で死亡したのは初めてのことだ。

 以降、ネット記事では連日のように「殺人グマ」「人食いグマ」等のいたずらに恐怖心をあおる言葉が並んでいる。

 元レンジャーの言葉は冷静だった。

「今回の事故に接し、ヒグマ管理に従事していた人たちの中で、あり得ないことが起きたと言う人はいないと思います。リスクがゼロだと思っていた人はいませんから」

 毎日新聞の9月1日の配信記事には、こんなセンセーショナルな見出しが躍った。

〈「知床は終わる」ヒグマとの「共生神話」崩壊で揺れる観光地〉

 元レンジャーはこのタイトルに対して「訴えたくなります」と冗談めかしつつ、続けた。

「神話でも何でもない。人の汗で安全が保たれていただけなんです。しかも、ギリギリのところで。だって、こんなにたくさんヒグマがいるところに、これだけいろんな人が入ってくるわけですよ」

 アイヌ語で「大地の突端」という意味を持つ約70kmの知床半島は、世界でも稀に見るヒグマの高密度地域だ。かつ、知床は2005年に世界自然遺産に登録されてからというもの、年間、約180万人もの観光客が押し寄せる一大観光地になった。人とヒグマの距離の近さということでは国内随一と言っていい。

 ヒグマが道路に現れると、それを見物するための「クマ渋滞」が起きる。禁止行為の餌付けを行う客もいた。高確率でヒグマが現れるポイントにはカメラマンが群がり、中には近距離から撮影を試みる無法者もいる。知床を訪れるたび、これでよくぞ大事故が起きないものだと思ったものだ。

 元レンジャーは語る。

「われわれは相当、いろいろなことをやってきた。トレッキングコース内に高架木道をつくり、山にフードロッカー(注:ヒグマが開けられない仕組みの食糧保管庫)を担ぎ上げた。お願いベースですけど、夕方、テントを回りチラシを配って注意喚起をしたり。クマが遊歩道などに現れたら、ゴム弾や花火で追い払ったり。相応の労力とコストがかかっているわけです。その積み重ねで、何とか事故を防いできた」

関連記事

トピックス

茨城県水戸市のアパートでネイリストの小松本遥さん(31)が殺害された
《水戸市・31歳ネイリスト女性死亡》「『誰かのために働きたい』と…」「足が早くて活発な子」犯人逃走から6日間、地元に広がる悲しみの声
NEWSポストセブン
浅田真央と村上佳菜子の“断絶関係”に変化
《声をかけて寄り添って》浅田真央と村上佳菜子の“断絶関係”に変化 沈黙から一転、見られていた「雪解けの予兆」
NEWSポストセブン
新宿の焼肉店で撮影された動画が物議(左は店舗のInstagramより、右は動画撮影者より提供)
《テーブルの上にふっくらとしたネズミが…》新宿・焼肉店での動画が拡散で物議、運営会社は「直後に殺処分と謝罪」「ねずみは薬剤の影響で弱って落下してきたものと推察」
NEWSポストセブン
新年一般参賀に出席された秋篠宮家次女・佳子さま(2026年1月2日、撮影/黒石あみ)
《新年一般参賀で見せた“ハート”》佳子さま、“お気に入り”のエメラルドグリーンドレスをお召しに 刺繍とハートシェイプドネックがエレガントさをプラス
NEWSポストセブン
元仙台高裁判事の岡口基一氏
「裁判所当局が嫌がった核心は白ブリーフだった」 弾劾裁判で法曹資格を失った岡口基一氏が振り返る「岡口裁判の急所」とは 裁判所と司法記者クラブの問題点も指摘
NEWSポストセブン
新年一般参賀に出席された皇后雅子さま(2026年1月2日、撮影/黒石あみ)
《新年一般参賀の“ブルーリンク”コーデ》皇后雅子さまはスタンドカラーでフォーマルに、愛子さまはマオカラー風で親しみやすさを演出
NEWSポストセブン
ネイリストの小松本遥さん(31)が殺害された水戸市のアパート
「赤ちゃんをかばおうとしたのか…」「複数の凶器で犯行」水戸市で死亡のネイリスト女性(31)がかつて警察に相談していた“人間関係トラブル” 
NEWSポストセブン
1995年、チャリティーゴルフ前夜祭に参加した“ジャンボ”こと尾崎将司さん(左)と長嶋茂雄さん
【追悼・ジャンボとミスターの物語】尾崎将司さんと長嶋茂雄さん、昭和のスポーツ史に名を刻んだレジェンド2人の重なる足跡 ライバルと切磋琢磨し、後進の育成に取り組んだ
週刊ポスト
松田烈被告
「スマホから『映してください』と指示の声が…」ネットで“性的暴行してくれる人を募集”した松田烈被告(28)、被害女性が語った“外道すぎる犯行”
NEWSポストセブン
真美子さん(共同通信)が使用していたブランドとは
《ハワイ・ファミリーデートで真美子さんが持っていたプチプラバッグ》「同年代インフルエンサーのアスレジャーブランド」か?と話題に 実用性の高いトートバッグ、大谷は「娘のベビーカー担当」
NEWSポストセブン
郭広猛博士
【MEGA地震予測・異常変動全国MAP】「奥羽山脈周辺に“異常変動”が集中」「千葉県が大きく沈降」…2026年初めに警戒すべき5つの地域
週刊ポスト
ジャーナリストの溝口敦氏(左)とフリーライターの鈴木智彦氏
《溝口敦氏×鈴木智彦氏が対談》山口組抗争終結後の暴力団 勝ったはずの六代目山口組含めて勢力は縮小、トクリュウのほうが経済規模も大きく勢いがある現状
週刊ポスト