8月14日に事故が発生し、閉鎖された羅臼岳の登山道
ただ、これはクマの専門家の共通点だが、葛西もヒグマをさほど危険視しているわけではない。
「クマがスーパー危険動物かっていうと、そうじゃない。ライオンやトラは捕食動物なので、背後から襲うでしょう。でも、クマは正面から来る。しかもほとんどの場合は威嚇で終わる。一発バンってやったら、人間なんて終わりなのに。世間が勘違いしているのは、クマが危険なのではなく、クマと無知な人がセットになるとヤバいんですよ。いまだに知床峠を自転車で下る人たちがいるんですから。自転車がクマに追いかけられたなんていう話もあるのに」
かつて知床でレンジャーを務めていた葛西も昨今のピント外れな「クマ狂騒曲」には、ややうんざり気味だった。
「知床に住んでいたらヒグマだけじゃなく、自然の中で命を落とすことは突拍子もないことではない。海に落ちたら死ぬし、暴風雪に巻き込まれたって死にますよ」
なのに、なぜヒグマのときだけ、こんな大騒ぎになるのか。葛西のぼやきは止まらない。
「都会人は自然をコントロールできると思っているでしょ? できるもんじゃないですから。それでもヒグマに関して言えば長いこと成功してきた。なのに、その成功には目を向けずに1つの失敗にフォーカスする。わからないでもないですけど、われわれはその流れに引っ張られ過ぎない方がいい。今まで通り、できることをやるしかない」