胸を張って堂々とすがすがしく生きている(イラスト/佐野文二郎)
放送作家、タレント、演芸評論家、そして立川流の「立川藤志楼」として高座にもあがる高田文夫氏が『週刊ポスト』で連載するエッセイ「笑刊ポスト」。今回は、有吉弘行について。
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2人組の「猿岩石」であった。
大ヒット番組『進め!電波少年』で松村邦洋と松本明子が大ブレーク。そのあと猿岩石がヒッチハイクで世界を回り、笑いと共に大感動を与えた。それこそ国を挙げての凱旋帰国。ヒット曲まで飛ばしたが足元はふらついていた。当人達にとっては何がなんだか分からない不確かなこの人気。すぐに人気はしぼんでいった。数年で仕事もなくなった。
その頃ダチョウ倶楽部が小さな人気を得ていて人柄がいい上島竜兵(早逝)を囲んで事務所の後輩達がごちそうになりながら先輩をいじる(からかう)「竜兵会」が業界的にも話題となり、竜ちゃんは人気者になっていった。
この頃の有吉弘行はいつも竜兵に食事をたかり、毎月のお小遣いまでもらって暮らしていた。竜兵に喰わせてもらっていたのだ。竜ちゃんにとってまたそれが喜びであり生きがいでもあったのだ。「そのうちまたいい事あるよ」「お前みたいなブタ芸人にはならねえからな。芸もなくてよく仕事してんな」。言ってみればスポンサーである上島に罵詈雑言を吐く有吉。うまく再現できないがその言い方、呼吸が面白くユーモラスな悪口なのだ。
有吉は自暴自棄になってないかと思い、その頃私は「竜兵会」に顔を出した。心配など皆無で生き生きと先輩につっこみ周りを大爆笑させていた。何よりも一切の卑屈さがなかったのが一番良かった。胸を張って堂々とすがすがしく生きているのだ。
やっぱり有吉はいいなあと思い、「有吉暇なのか?」「な~んにもありませんアハハ」と笑う。「オレのラジオのレポーターからやるか」「喜んで」。こうして『ラジオビバリー昼ズ』のレポーターとなり1回目のレポート先はどうしようか考え、怖い者なし失う物何もなしの有吉にピッタリ。
フジテレビのデスクへ行き、当時“トレンディドラマ”で当てて調子に乗ってると噂の大多プロデューサーの所へ行きレポートを命じた。そう今現在フジTVから港元社長と共に50億円の損害賠償を求められているあのトレンディ男である。
水を得た魚の有吉。今ではない、20年近く前の生放送である。「どう? 女子アナとか集めて飲んでんの? やっぱ必要経費?」。ドッカーン。バカうけ。衝撃。有吉は柔の道、腕に覚えがあるからどんな相手でも容赦ないつっこみなのだ。ここから数本やったら私の番組は業界聴取率が高いのでテレビから一気にオファー。今やテレビ業界の大看板である。
先週会ったら「結婚の時直接あいさつに伺いましたよネ。業界であの時あいさつに行ったの高田センセーだけ」。嬉しい事を平気で言う。
※週刊ポスト2025年9月19・26日号