「官から民へ」は「民」に「公共」の見識がないとダメ
本のタイトルの「Think Public」は、世界の広告の歴史で、「Think small」「Think different」の波に続く、第三の時代として杉山さんが提唱するものだ。
「よく、『官から民へ』って言うでしょ? 言葉の響きはいいんだけど、『民』に『公共』って見識がないと結局、好き勝手やることになっちゃう。フランスとか、『官』から『民』のほうにしたけど、うまくいかなくなってもう1回『官』に戻すみたいなこともやっている。『民』はどうしても利益優先になるから、『パブリック』という概念が根づかないとうまくいかないんです」
本に紹介されている「パブリック」が民間企業でうまく体現されている例として、コロナ禍にビールブランドのハイネケンが休業中の飲食店のシャッターなどに広告費の大半を出稿した、シャッターアドの取り組みが紹介されている。
「それまでの広告費を思い切ってばーんと切り替えた、考えてみれば、最高の飲食店支援ですよね。そういう支援を受けたら関係はすごく深くなります。経営者に『パブリック』の感覚があったからこそできたことだと思います。ビューティケアブランドの『Dove』が、あのコロナ禍の真っ最中にゴーグルの跡も生々しい、医療従事者の写真を『勇気こそ美しい』と掲載したのもそうですね」
杉山さん自身も「Think Public」を実践している。
ライトパブリシティは銀座にあり、コロナ禍に人の姿が消えた銀座の街を支援するため、半年間、無償でデザインを提供し、「おかえりGINZA」の黄色いのれんをつくるなどした。
日本のテレビが一番元気だった時期に、小学館「ピッカピカの一年生」やサントリー「ローヤル」のランボーのCMなどを手がけてきた杉山さん。
公共広告以外にも、最初期からインターネット広告なども手がけてきたそうだ。
「サラリーマンだから仕方ないけど、インターネットをやらされたのは最悪に大変だった(笑い)。でもMITのメディアラボの黎明期に通えたのはラッキーだった! ぼくは新しいものを恐れるよりは面白いと思うほうです。今日も明日もおんなじだっていうのが一番、怖い。それって停滞だからね」
【プロフィール】
杉山恒太郎(すぎやま・こうたろう)/1974年に電通に入社。東京本社クリエーティブディレクターとして活躍。1999年よりデジタル領域のリーダーを務め、インタラクティブ広告の確立に寄与。2005年取締役常務執行役員を経て、2012年にライトパブリシティへ移籍。2015年に代表取締役社長に就任。主な作品に、小学館「ピッカピカの一年生」、セブン-イレブン「セブンイレブンいい気分」、AC「WATER MAN」など。国内外受賞歴多数。2022年「山名賞」を受賞。
取材・構成/佐久間文子
※女性セブン2025年10月9日号