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「島ではすべてが監視されている」韓国人が恐れる“奴隷島”に潜入取材 筆者を震撼させたリアルな“評判”

新安諸島は1004の島があることと、1004の発音が韓国語で「天使」と同じことから天使と絡めたプロモーションが行われている(写真右:共同通信。写真はイメージ)

 韓国の新安諸島で行われていたとされる人身売買、通称“島奴隷”をご存知だろうか。路上生活者や障害者、身寄りのない前科者など、社会的に弱い立場にある人々が“高収入”といった誘い文句で離島へ連れていかれ、塩田や漁場といった危険かつ劣悪な職場に閉じ込められる、いわば現代の「奴隷労働」だ。

 この“島奴隷”は1960年代から断続的に報じられつつも、長らく“都市伝説”扱いされてきた。それが白日のもとに晒されたのが、2014年に全羅南道・新安(シナン)諸島で発覚した「塩田奴隷事件」である。

「奴隷島」の現在はどうなっているのか。現地取材を敢行しようとした筆者に韓国の人々が口々に忠告した。曰く、「女が1人で歩いていたら何が起きるかわからない場所」なのだという──。【全3回の1回目】

 * * *

 新安諸島は朝鮮半島南部の西海岸に点在する約1000島(諸説あり。1004や1025島ともいわれる)からなり、うち有人島は約80島。各島にまたがる広大な干潟を活用した天日塩生産が主産業だ。

 事件の発端は、そのうちの新衣(シニ)島の塩田で実際に働かされていた知的障害のある40代男性A氏と視覚障害者B氏の告発だった。彼らは職業あっせん業者を介して雇われ、それぞれ約5年と約2年にわたり働いていた。長いときは1日19時間の無賃金労働を強いられ、鉄パイプで殴打されることもあったという。脱走を試みても、島ぐるみで連れ戻され、「次に逃げたら刺す」と脅された。

 そんな中、B氏は2014年1月、隙を見て島の郵便ポストから本土の母親あてに手紙を投函。これが摘発の突破口となった。

島唯一の、新衣郵便局ポスト。被害者が決死の覚悟で手紙を投函した

島唯一の、新衣郵便局ポスト。被害者が決死の覚悟で手紙を投函した

 しかし塩田主らへの処分は軽く、主犯は懲役3年6か月、職業紹介業者らは2年~2年6か月。ほかにも勤労基準法違反で起訴された塩田主ら合計36人のうち、ほとんどが執行猶予か不起訴にとどまった。裁判所が「地域の慣行」や「食事を提供していたこと」などを酌量し、劣悪な残飯レベルの食事を”賃金相当”と認定した例まであった。

 そればかりか現在、起訴された加害者のうちの一人が郡議会議員に返り咲いており、全羅南道トップクラスとなる67億ウォンの資産を保有していることも明らかになった。

 被害者救済はなお遅れ、2014年に新安で救出された63人のうち約40人が、居場所や仕事を失い、再び塩田へ戻ったとされる。2015年には「事実に基づく衝撃作」として社会派映画『奴隷の島、消えた人々』が製作され、2017年には日本でも放映されている。

 韓国全土から批判の声が上がり、2016年に民事裁判で原告側が一部勝訴。しかし賠償は被害実態に比して雀の涙で、公的支援や再就労支援も進まなかった。また事件発覚直後、なぜか新安諸島の海岸や海中で身元不明の変死体が相次いで発見され、例年の倍以上の11体に達した。この事件との関連も取り沙汰されたが、未解決のままである。

“奴隷”が明るみに出たのは10年以上前の話だが、実は今年に入り、米国税関・国境警備局は新安諸島最大の塩田「太平塩田」で生産された天日塩に輸入差止を発動している。理由は、国際労働機関(ILO)が定める強制労働の基準に多数該当すると判断されたからだ。

 つまり、まだ“島奴隷”問題は現在進行形なのだ。

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