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杉山恒太郎さん、世界の公共広告を論じた新著『THINK PUBLIC』インタビュー「今日も明日も同じが一番怖い。それって停滞だからね」

『THINK PUBLIC 世界のクリエイティブは公共の課題に答えを出す』/宣伝会議

【著者インタビュー】杉山恒太郎さん/『THINK PUBLIC 世界のクリエイティブは公共の課題に答えを出す』/宣伝会議/2200円

【本の内容】
 杉山さんは「PROLOGUE」でこう綴る。《続々と登場しては消えてゆく新しいマーケティング手法の渦に、飲みこまれそうな気持ちにもなるが、こういうときこそ本質を見つめるべきだろう。この変化の根底にあるのは“広告から公告へ”の進化だと僕は考えている》。世界の優れた公共広告の具体的な作品がその意図や背景と効果、そして杉山さんの感想、分析とともに紹介されている。私たちが何気なく目にするテレビや新聞、雑誌、そしてインターネット広告を見る目が変わること請け合いの一冊。

突然、社会正義に目覚めたということではありません

 日本の老舗広告制作会社ライトパブリシティの社長であり、現役の広告クリエイターである杉山さん。新刊の『THINK PUBLIC』は、30年前から注目してきた、人を動かし社会を変える、世界の公共広告を解説する。

 杉山さんと公共広告の出会いは、今から30年ほど前、カンヌ国際広告祭に審査員として呼ばれたときのことだった。当時、日本の広告の面白さが世界でも注目されている時期だったが、商品を売る広告が主流で、公共広告の分野では明らかに後れを取っていることがわかり、ショックを受けたという。

「世界のトップオブトップ、超一流のクリエイターが、すごい高いレベルでつくっていて。日本でも、これぐらいのレベルで、いい公共広告をつくってるねと言われたいという目標ができたんですね。それから自分でも手がけるようになって。あくまで広告表現として興味を持ったんで、突然、社会正義に目覚めたとかいうことではありません(笑い)」

 帰国後に杉山さんは公共広告機構(現・ACジャパン)の骨髄バンクを支援するキャンペーンや、ドラッグ撲滅キャンペーンなどの広告を手がけた。

 杉山さんは本書で、公共広告との出会いがあったお蔭で「精神的に潰れずにすんだ」と書いている。

「広告って結構、疲れる仕事なんです。クライアントがいて、その責任者がOKを出さないと成立しない。自分がどんどん成熟してきて、技術もついてくると、そのやりとりに疲れてくるんです。ぼくだけじゃなく、広告に携わるクリエイターはみなそうだと思う。

 人間の明るいところだけを見せて泣いたり悩んだりなんてしない世界を見せるのが広告だけど、本来、表現なんていうものは、人間の中にある暗部によって豊かになることもある。そんなことを思うとだんだん面白くなくなって。要するに飽きちゃったんです」

 大学で教えないかという声がかかったりもしたが、世界に通用する公共広告をつくるという目標ができたことで、商品を売るという本来の広告制作にも再び新鮮な気持ちで取り組めるようになり、「クリエイターとしての寿命が延びた(笑い)」という。

 日本のテレビ局の広告審査は厳しく、死を思わせる表現は避けるという不文律があるそうだ。

 骨髄バンク支援のCMをつくったときも「わたしに命をくれた人がいる」というコピーに、「死を連想させるからやめてほしい」と注文がついた。「命」という言葉がこの広告の肝だと粘り強く交渉した結果、先方が根負けしてこのまま放送されることになった。

「日本の公共広告って割とあいまいな表現に落ち着くんですよ。欧米の公共広告はリアルで、電話番号と『ここに寄付してください』と最後に伝えるけど、『優しい気持ちを届けよう』みたいにお茶を濁すのが日本。別に欧米崇拝ではないけど、日本でもできるだけ必要なメッセージを届けたほうがいいと思う」

 杉山さんは取材中、「社会正義に目覚めたわけではない」と何度もくり返した。含羞からだけでなく、自ら正しいことを発信していると思うと、勘違いしていわゆる上から目線でメッセージを送ることになりがち。そうなってはいけないという作り手側の矜持からの発言のようだ。

「自分だってミスをする、危ういものにひかれるところがあるという弱さを認めないと、行きすぎた恐怖訴求でつくったりしてしまうんじゃないかと思います」

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