「なにも見えない……」
船着場と切符売り場の無機質な建物を除けば、視界いっぱいに塩田が広がるだけ。ここに来て一体なにをするのか、我ながら疑問を覚えた。船を降りると、乗客らは港の駐車場にあらかじめ停めてある乗用車やトラックに乗り、次々と去っていった。
船着場を出ると、ひたすらこのような光景が続く
新衣島の塩田(※事件現場とは関係ありません)
船着場から10分ほど歩くと、民家がぽつぽつと見えてきた。しかし相変わらず人影はなく、鎖で繋がれていない飼い犬に激しく吠えられた。
とりいそぎ、地図上に表示された食堂を目指してしばらく進んだが営業しておらず、やがてバルコニー付きの2階建て住宅周辺にたどり着いた。それは”豪邸”と言っても差し支えなかったが、周囲の風景に馴染んでおらずいささか唐突感があった。
変わらぬ風景に焦りをおぼえていた筆者は、そこでなにかしらの情報を得ようと、この“豪邸”の玄関を叩いた──。
<取材・文/安宿緑>
【プロフィール】
安宿緑/編集者、翻訳者、ライター。メンタルを軸に社会問題を分析するのが趣味。韓国心理学会正会員。