「サーティーツーアイスクリーム」などバリエーションは驚くほど豊富(インスタグラムより)
「くすっと笑える」架空の店舗・銘柄、きっかけは大手ピザチェーンのクレーム
「ある大手ピザチェーンからは『ユニークな取り組みですね。PRしていただき、ありがとうございます』と商品券をいただきました。でも別の大手チェーンからは『弊社のロゴを勝手に使用しないでください』と抗議を受けてしまいました。そこで実在する店舗のバッグを使うのはやめることにしたんです」
活動自体をやめようとも考えたが、なんと登山で足腰が鍛えられ、マラソンタイムが2時間ほど縮んだというのだ。思わぬ“成果”があったことに加え、ほかにも“デリバリー登山”をやめたくない理由があった。
「やっぱり山を登っていると、きつい時もある。でも変わった格好で“デリバリー登山”をしていると、皆さんに声を掛けられるし、『なんだ趣味なのね。面白いことをしているね。笑ったら疲れが吹き飛んだよ』と笑顔をもらえる。知らない人とも会話が弾むし、お互いに山頂までがんばろうという気持ちになる。気づいたら、すっかりイチバンの趣味になっていました」
以降は実在の店舗の商標を侵害しないように「くすっと笑えるレベル」(馬並さん)にもじったロゴを作成し、活動を継続。自身の名前をもじったピザ配達員「ホースレベルピザ」以外にも、ビール「キリソ二番絞り」の売り子、「浅草うまなみ堂」「うまなみ寿し」「スシ口一(スシコウイチ)」などの和菓子や寿司職人スタイルもある。
またパティシエ姿の「パティスリー・フトシ・ウマナミGOTENBA」「ステルスおじさんのクッキー」「白い変人」、その他にも「馬い!馬並軒」「ゴーゴー壱番屋」「サーティーツーアイスクリーム」などバリエーションは驚くほど豊富だ。
馬並さんがさらに思いを語る。
「私がお届けするのは商品ではなく、『ユーモア』です。皆さんに驚いて、笑ってもらって、お互いに楽しく登山ができればうれしいですね。山で声を掛けてくれた方のリクエストで生まれたコスプレもありますし、準備段階でまだ公開していないものもあります。もし山で見かけることがあったら、ぜひ気軽に声を掛けてください」(馬並さん)
続く記事では、ユーモアたっぷりのアイデアが生まれる瞬間や、低予算で作成している本物さながらの小道具について、また「山をなめるな!」と激怒された体験についても語ってもらった。
<取材・文/中野龍>
【プロフィール】中野 龍(なかの・りょう)/フリーランスライター・ジャーナリスト。1980年生まれ。東京都出身。毎日新聞学生記者、化学工業日報記者などを経て、2012年からフリーランスに。新聞や週刊誌で著名人インタビューを担当するほか、社会、ビジネスなど多分野の記事を執筆。公立高校・中学校で1年7カ月間、社会科教諭(臨時的任用教員)・講師として勤務した経験をもつ。