本来の社会保障とは、あくまで「社会的な弱者」が直面する問題をみなでやわらげる制度に他ならず、ここには仕事を辞めた高齢者だけでなく、病気や障害を抱える人や、子育ての負担に悩む家庭なども保護の対象に含まれる。つまり、高齢者でも現役で働いているなら「支える人」に当てはまるし、若年層でも働けない状態にあるなら「支えられる人」に当てはまる。
ただの言葉遊びのように聞こえたかもしれないが、この理解が導く希望の射程は、思うよりも長い。順を追って説明しよう。
年金を問題にする識者は、日本に住む65歳以上の人口を、20~64歳の人口で割っただけのデータを使うことが多い。しかし、この計算には、働く高齢者や働けない若者の数は含まれず、事実から離れた結論が出やすい問題がある。 「1人が1人を支える肩車型」という見方は、実態を反映していない可能性があるわけだ。
内閣府の統計を見ると、近年の日本で働く65歳以上の数は全体の25%だ。逆に現役世代で就業していない人も多く、その割合は30%近くに達する。これだけの食い違いがあると、年齢を見ただけでは「支える人」と「支えられる人」の関係はわからない。
実態を理解したいなら、1人の「働く人」が、何人の「働いていない人」を支えるのかを見る必要があるはずだ。
この考え方をもとに就業者を非就業者の数で割り、今と昔の「支える人」と「支えられる人」の関係を調べたらどうなるか。結果は次のようになる。
・1975年=0.88
・2020年=1.13
実は今も昔も「支える人」と「支えられる人」の関係はほぼ変わらず、なんとなれば過去のほうがやや現役世代の負担は大きかったことがわかる。つまり、この45年間、日本人はずっと「働いていない人」1人を、ほぼ「働く人」1人で支え続けおり、負担の量が激増したわけではない。
さらには、先に取り上げた未来の人口をもとに、これからの負担も予想してみよう。今後も同じペースで女性の社会進出や高齢者の労働参加が進むと仮定した場合、2070年における就業者÷非就業者の数は“1.13人”となる。現在とまったく同じだ。
もちろん未来の働き方がどう変わるかはわからないが、人口の予測は精度が高いため、就労者の変化も極端に外れる可能性は低い。そう考えると、若い世代の負担が、これから何倍にもふくれ上がると考えるほうが難しいだろう。