厚生労働省の入る中央合同庁舎第5号館
少子高齢化が進んで、現役世代の負担が激増する。そんな言説が流れているが、それは果たして「ほんとう」なのだろうか。16歳から5000本の科学論文を読み漁り、現在サイエンスジャーナリストとして活動する鈴木祐氏は、メディアやSNSの目に見えない他者から受ける強い影響を「呪い」とし、そうした「呪い」には科学的な根拠があるのかを検証した。
今回のテーマは少子高齢化。巷で引き合いに出される数字の正当性を検討していくと、思っていたより「ニッポンの未来」が明るいことに気づけるかもしれない──。
鈴木氏が8月末に出版した著書『社会は、静かにあなたを「呪う」』から一部抜粋して再構成。【全2回の第1回】
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高齢者1人を支える現役世代の図(イメージ)
現役世代の負担はどこまで重い?
2012年の国会議事録には、内閣総理大臣のこんな発言が記録されている。
「多くの現役世代で一人の高齢者を支えていた胴上げ型の人口構成は、今や三人で一人を支える騎馬戦型となり、いずれ、一人が一人を支える肩車型に確実に変化していきます」。
周知のとおり、今の日本では、現役世代が支払った金を年金世代に支給する仕組みが使われている。若者から高齢者へ仕送りをするようなイメージだ。
ならば、少子高齢化が進むほど、システムにひずみが出るだろうとは誰にでも予測がつく。かつては高校の教科書にも上のような画像が掲載されていたように、未来には1人の若者で1人の高齢者を支えざるを得なくなり、ほどなく日本の社会保障は崩壊するに違いない。
「このまま現行の社会保障制度が維持できるとは思えない。これは私の意見や感想ではなく、数字が示す事実なのだ」
「社会保障を今のように保証しないのであれば、人口は減っていっても落ちぶれた国としてやっていけると思うんですよ」
社会保障の未来を憂える識者の声も絶えず、特に若年層にとっては「年金を払っても返ってこない」といった不公平感を抱かせる原因となっている。国の予算のなかでも社会保障費は圧倒的なシェアを占めるし、その負担が増す一方だと思えば、暗い気持ちになって当然だ。
年金が、必ずしも「若者からの仕送り」ではないからくり
が、絶望にのまれる必要はない。なぜなら日本の年金システムは、必ずしも若者から高齢者への仕送りだとは言えないからだ。