被告が立てこもった、青木家の邸宅
「部屋の様子がネットで流されている」
それによると、被告は高校卒業後、一浪して都内の大学に進学。学生寮での生活を始めたが「次第に、大学や寮で『ぼっち』『キモい』などと悪口を言われており、これが拡散されてネットいじめにあっていると感じるようになった」という。母にいじめを訴え、寮を出てアパートで一人暮らしを始めたが、帰省時に乗った高速バスでも乗客から「ぼっち」「キモい」と言われると感じ、都内から長野県中野市の自宅まで自転車で帰ってこようとしたこともあった。「ぼっち」「キモい」と悪口を言われている……というのは被告の妄想である。
2013年の夏には、連絡がつかないことを心配し都内のアパートを訪ねた両親に対し、被告がこう訴えた。
〈周囲から「ぼっち」「キモい」と言われ、ネットいじめにあっている。アパートに盗聴器や隠しカメラが仕掛けられており、部屋の様子がネット上で流されている〉(判決より)
両親はこれを聞いた当日に警察に出向きネットいじめの被害を訴えたが、その形跡は発見されなかったことから被告は落胆した様子を見せたという。くわえて両親は、盗聴器等の捜索を依頼した探偵から、何も発見されなかったという報告だけでなく「統合失調症かもしれない」と受診を勧められた。結局、被告は大学を退学し、実家で両親と暮らすこととなったが、両親は被告を精神科に受診させることはなかった。裁判に証人として出廷した父親は「家族の愛情で元の元気な姿に戻るだろうという素人判断だった」と振り返っている。
被告は実家に戻ってからアルバイトの傍ら、父親の果樹園の手伝いを始め、2016年には農園の経営を任されるようになった。自身の名前から「マサノリ園」と名付けた農園では、ぶどう栽培などに精を出し、順調に利益を上げていた。2019年、父親がオープンさせたジェラート店で製造の仕事をするようになってから、その製造エリアに目隠しを施し、客から自身の姿を見えないようにした。
2022年にオープンした二号店では経営までも任されるようになったが、同様に目隠しを施し、店舗のトイレを使用せず、用便の際は実家に戻るという日々を送っていた。この年の9月には、二号店にアルバイト店員が出勤した際、いきなり被告が店員に殴りかかり「ぼっちとバカにしただろう」「ぶっ殺すぞ」と大声を上げるという事件もあった。
実家に戻ってからの被告は、しばらく「ぼっち」という悪口が聞こえることはなかったというが、数年後には再び悪口が聞こえるようになったようだ。農作業中に近くの高齢者から、そしてジェラート店では客から悪口を言われている、ネットいじめが再燃した、と思っていたという。自宅ではパーカーのフードをかぶり、来客に応対することもせず、「隠しカメラだ」と、PCのカメラ部分にガムテープを貼った。