騎馬戦では騎馬役を担当(中学の卒業アルバムより)
「飼い犬のことを頼む」
その後、倒れている被害者を“目立たなくしよう”と自宅から台車を押し、一人を乗せて自宅敷地に運び込んだところで、“近隣住民に目撃されたことから、警察官が臨場して射殺されるかもしれない”と思い、今度は自宅からハーフライフル銃と弾丸を持ち出し、また台車を押し、もう一人の被害者が倒れている畑に向かっていた。そこにパトカーに乗った警察官が臨場。被告はパトカーが近くの工場付近に入り停車すると、銃口をパトカーに向け距離を詰め、銃を発砲し運転席に座っていた池内警察官を殺害。助手席の玉井警察官が車外に出たところ、ナイフで刺して殺害した。
直後に私服警察官が臨場したが、被告は銃を持って追いかけている。「ここは銃を持ってよい場所ではない」ととがめられると「そんなことはわかっている」「撃たないのでどこかに行くように」と答え、立ち去った。もうひとりの私服警察官にも遭遇したが、何もせずに自宅に戻る。
午後5時半過ぎ、事件を聞きつけた母親が自宅に戻ると、青木被告は言った。
「俺のことをぼっち、ぼっちってバカにしてるからやったんだ」
「警察が来て、もう俺は撃たれるから、撃たれる前に撃った」
自宅に立てこもる中、母親から自首を勧められた時には、こう答えたという。
「警察に捕まっても、長い裁判の末に絞首刑になってしまう。絞首刑になるのは長く辛く苦しいので、そういう死に方は嫌だ」
自殺のために自分に銃口を向け二度発砲したが、弾はいずれも被告に命中しなかった。「これから出る。飼い犬のことを頼む」と父親に電話で伝えたのち、翌日午前4時過ぎごろ、自宅を出て投降。のち逮捕されている。
裁判所はこうした事実関係と、双方の鑑定結果を照らし合わせた末に、被告には完全責任能力があると認定した。後編〈「倒れている被害者を目立たなくしようと台車で自宅敷地の奥に運び込んでいた」死刑を言い渡された犯人が「完全責任能力」を認められた理由〉では、被告に責任能力があったかについてどう認定されたのか、その経緯を綴る。
(後編につづく)
◆取材・文/高橋ユキ(ノンフィクションライター)