事件の発生により、美術館は3日間の休館となった(写真/アフロ)
白昼、国宝級の歴史的宝飾品を盗み去るという、「怪盗ルパン」を彷彿とさせる窃盗グループも、捜査機関の目を完全にくらませることはできなかった。10月19日、フランス・パリのルーブル美術館で155億円相当の宝飾品が盗まれた事件で、26日までに実行犯とされる30代の容疑者2人がフランス当局に拘束された。うち1人はアルジェリアに出国しようとしていたとの情報もある。
「手がかりは、ルーブルの外壁工事をしていた作業員に扮するために使われた黄色いベストなどの遺留物でした。2人には、窃盗の前科があったため、遺留物に付着していたDNAから容疑者を特定。捜査員は、広範囲の防犯カメラ映像をくまなく確認し、容疑者の拘束に至ったようです」(パリ在住日本人ジャーナリスト)
彼らが奪ったのは、ルーブル美術館に展示されていたネックレスやティアラなど宝飾品8点。侵入から強奪、逃走までわずか7分間という手際のよさや、誰一人傷つけることのない、ある意味で鮮やかな手口は世界を震撼させた。一方で、フランス国民からは、政府に対し「国の恥」といった批判も相次いでいる。
「盗難品の一部は、2019年に展示スペースが移動されていたのですが、その際にガラスケースの強度や侵入検知システムの見直しが充分に行われていなかったという事実も露呈しました。また、過去15年間にわたって200人相当がリストラされており、警備体制が脆弱になっていたことも指摘されています。
9月に、同じくパリの国立自然史博物館から、約2億6000万円相当の金塊が盗まれたばかりだったことも、批判の勢いを加速させました」(前出・パリ在住日本人ジャーナリスト)
1週間での実行犯逮捕には政府の意地も感じられるが、どうやらこの2人は、組織の末端に過ぎないようだ。フランスの文化省職員はため息を漏らす。
「かなり手慣れていて組織的かつ計画的な犯行で、少なくとも10人以上は直接犯行に関与しているでしょう。美術館内に手引きをした人物がいる可能性も排除せず、セキュリティーの見直しを急いでいるところです」
実際、10月25日の英紙『テレグラフ』は、当局が美術館関係者が犯行に加担した証拠を確保したとも報じている。さらに奪われた宝飾品の所在も謎のままだ。国境を超えた宝飾品取引を行う「Art Space89」代表の呉鴎氏が話す。
「希少な美術品や宝飾品の盗難品は、数年間は国境をまたがせず秘密裏に寝かせて、ほとぼりが冷めた頃に分解・溶解されて国外の闇市場に流すというのが常套手段です。
しかし今回の盗品は、いずれも歴史的な品々であまりにも目立ちすぎる。分解して闇市場で買い手を探すにしても、足がつくリスクが高く、高額すぎて買い手も見つけにくいのです。となると、犯行前に買い手が決まっていたか、蒐集家が盗難グループに発注してから犯行が行われた可能性が高い。国際的な犯罪組織が密かに収蔵するとなれば、二度と表世界には戻ってこないのでは」
盗難品の一刻も早い“生還”を祈りたい。
※女性セブン2025年11月13・20日号
