「助けてもらえなかった」後遺症で人間不信、精神安定剤を飲む毎日
中学校を卒業すると、教師との接点はほとんどなくなった。だが、後遺症が続いた。人間不信だ。助けてもらえなかった、という経験があるから、大学卒業後も、人間関係をうまく作れなかった。いまも精神安定剤を飲んでいる。
10年前くらいからは日本社会でも性暴力について徐々に語られるようになったが、男性の性被害は依然として表に出にくく、当事者以外に認識されていないと感じる。特に女性からの被害の場合は「得したじゃないか」「良かったね」などといったコメントが、ネット上で書き込まれることも多い。栗栖さんは、今回の取材には実名で応じることにした。いまなお、広く知られていない男性の性暴力被害を少しでも知ってほしい。その一歩になればという願いからだ。
「被害を名乗り出ることは難しい。けれど誰かが防波堤になって名乗り出ないと、誰も気づかない、おかしいと思っても声を上げられない状態が続いてしまうから」
栗栖さんは中学時代に性暴力を受ける中、男性教師に下着を奪われていた。その返還を求め、教師を相手取った民事訴訟を起こし、2022年9月に勝訴した。被害そのものは時効になっていたため、民事訴訟を通じて性暴力の実態を公に認めさせることも狙った裁判だった。
裁判で、教師は書面で「転居の際、焼却炉で燃やしたため『ない』」「『もらっていい?』と尋ねていて本人はうなずいていたので、『無理やり』とは……(内心嫌だと思ったのでしょう)」などと答弁した。
松戸市教育委員会は2017年、栗栖さんからの訴えを受けて事実関係の調査をした。だが、教師への協力要請に返事はなかった。被害から時間が経っていたことなどを理由に、当初は教師が直近に勤務していた学校の管理職ら4人に調査、また、裁判で勝訴後の2022年末から翌2023年1月には当時の同僚2人にも調査をした。しかし、いずれの調査からも事実関係は明らかにならなかった。
2022年9月の判決を受け市教委は「被害に遭われた方がつらい思いをされたことを、重く受け止めている。今後の対応について検討を進めている」とコメントした。再び男性教師に調査を依頼しているが、返事はないという。
(第2回につづく)