父がいたら、何と声をかけるか
── 人の生き死にに立ち会う運命のもとに月緒さんは生まれたんですよ。もし失踪したお父さんと話せたなら、なんと声をかけますか」
「お父さんのことは、今でも悲しいし、バカだなと思います。私にひと言『助けて』と言ってくれれば、お父さんが生きていけるだけのお金を稼いだのに……」
── そうですね。月緒さんならできましたね。
「お父さんの死に方は昔の『昭和枯れすすき』ですよ。それにお父さんは趣味もなく、仕事ひと筋でした。趣味、やりがい、性欲がなかったんです。私は人の顔をみるとわかります。お父さんはきっと勃ちが悪いと思います」
照れ隠しに冗談を交えているが、月緒の気持ちは伝わってきた。父親の死を話せるようになっただけでも、どん底からは立ち直れている。最後に月緒自身の生き方にも触れてみたい。
── 月緒さんは、父親と血はつながっていないですが、失踪は遺伝すると思いますか?
「お父さんの場合は失踪がそのまま自殺につながっていますね。私もたまに考えます。警 察の方が言ってましたが『身内が自殺で亡くなると、つられる人が多い』らしいです。私もこういう仕事ですし、死んでもいいかと思うときはあります」
──自殺を選ばないのはなぜですか?
「今は旅行、お酒という好きなものがあります。まだ行ったことのない国も多いし、飲んだことのない日本酒もあります。SMショーをメインの仕事にしたことで、今は友達もたくさんいて人生が楽しいんです。また、近々同性婚をする相手もいます。メンタル面も検査したことがありますが、うつ病でもなんでもなかったです。
──風俗で働く女性の中にはそれこそ精神的に弱い人もいますが、月緒さんは芯がしっかりとしていますね。
「私は嫌なことがあったら、落ち込むより怒りに変えるタイプです。悔しければ見返すような結果を出せばいいんです。だから病まないですね。もし悩みがあるなら、箇条書きにして、解決策を探すといいですよ。もし解決策がなければ、私ならお酒を飲む。飲めないならほかのストレス解消法を試してほしいですね」
非常に合理的な考え方は、若いときに風俗で働いていて身についた。
「悩んでいても、お店には出勤しなきゃいけないんです。お金を稼がなきゃいけないんで す。若い頃はナンバー3ぐらいに入る人気嬢でした。お客さんが来るので休めない。そんなときでも『自分で選んだ仕事だから責任を持とう』と思いました」
月緒が持つ強さは、実は父が持っていた責任感を引き継いでいるのではないだろうか。 そして、その背景には父からの愛情があるのではと私は感じ始めていた。
父からの愛情と暴力と
父の死後、母親と妹と一緒に父の社員寮の片付けに行った。
「雑誌がたくさん出てきました。20代の私は自分で言うのもなんですが、売れっ子嬢だったので、そっち系の雑誌によくグラビアが載っていました。その雑誌をお父さんは集めていてくれたんです。この仕事はお父さんに伝えてないので、偶然見つけたんだと思います。当時の源氏名は飼い猫の名前でした」