“残された人”の人生への影響は(イメージ)
緒月月緒さん(仮名)の人生は波瀾万丈だ。血の繋がっていない父と母が離婚した後には、母の浪費癖に悩まされ、18歳から風俗嬢として働いた。そんな月緒さんが失踪した父親と再会を果たしたのは、遺体安置所。姿を消した日から続いた混乱は終わりを迎えたが、自分を愛してくれた父の死を前に、月緒さんは動揺を隠せなかった。
警察庁発表のデータでは、2023年における行方不明者は9万144人で、同年中に所在確認などがされたのは8万8470人。しかしそこには死亡者も含まれる──。
身近な人の失踪と死を経験した“残された人”は、その後の人生にどんな影響があるのか。フリー編集者&ライターとして活躍する松本祐貴氏が、失踪経験者やその家族の話をもとに執筆した『ルポ失踪 逃げた人間はどのような人生を送っているのか?』(星海社)から一部抜粋して再構成。【全2回の第2回。第1回から読む】
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「人はいつかいなくなる」残された家族の言葉
結局、月緒にとって父の失踪と死はどのようなものだったのだろう。
── 父親が失踪した3月から死亡がわかる7月まで、残された家族としての気持ちはどうでしたか?
「お父さんはうつ病だと感じていましたが、死ぬと思っていませんでした。どこかで生きていてくれると楽観視していました」
── 死を聞いたときは?
「『あのお父さんが本当に死ぬんだ』とぼんやりしました」
── ほかに感想はありましたか?
「人間の心が折れたときはもろいですね。あれだけ家族に暴力をふるってた人が、死んで
しまうんですから」
── お父さんの失踪の前と後で、月緒さんに変化はありましたか?
「恋愛、死別などの人との別れに対して、なにも思わなくなりました。人は、いつかいなくなります」
── 経験したことがある人にしか言えない言葉ですね。
「そうですね。もうひとつ言いたいのは『救えない命に対してはなにも言ってはいけない』ということです」
── どういう意味ですか?
「自殺をダメと言うなら、その人の生きる道を探し、最後まで面倒をみることが必要です。 私も『お父さん、なぜ』という思いはありましたが、現実では救えなかったので仕方ありません。だから目の前の人が『死にたい』といったら『そっか』としか言えないですよ」
── お父さん以外にもそういうふうに言われたことはあるんですか?
「昔付き合っていた女性に『うつで死にたい。殺してほしい』と言われたことがあります。 私がお風呂から上がったら、キッチンに包丁を持った彼女が立っていました。『殺してほしい』と言われたので『私には無理』と断りました。殺人者にはなりたくないし、生きるか死ぬかは、本人が選ぶものです。死にたいなら自殺してもらっていいけど、私は関係ない場でいたいですね。ある程度の年なら自分の面倒ぐらい自分でみてほしいです。結局、その女性には『好きにしな』と伝えました。彼女は『薄情者』と、包丁を投げてきましたけどね」
