立ち入り禁止区域を設ける地域も
「誰がクマを殺す役割を担うのか」
防衛省陸上幕僚監部広報室に今回の派遣に対する見解を求めると、
「個別の任務の性質や具体的な活動内容に即して武器の携行を判断するが、自衛隊は猟銃等を使用した鳥獣駆除の訓練を実施しておらず、狩猟のノウハウを有していないため(クマへの発砲は)現状困難」とし、今回の秋田県での任務中における隊員らの安全確保に関しては「猟友会と連携しつつ、防護盾や熊スプレー等を使用し、安全に万全を期す」
と説明した。
ほぼボランティアとなる各地の猟友会に駆除を委託するだけでは対応がままならず、自衛隊にも多くの制約があるなかで考えなくてはならないのは、国民の命を守るために、「誰がクマを殺す役割を担うのか」という問題である。
現在、政府が白羽の矢を立てようとしているのが警察だ。10月30日に立ち上げたクマ被害対策の関係閣僚会議では、警察庁に対し、「警察官がライフルを使って駆除すること」を検討するよう指示が出された。実現すれば、警察が“ガバメントハンター”として駆除に乗り出すことになる。【※追記:警察庁は11月13日から、機動隊の警察官がライフル銃でクマを駆除する運用を、秋田県、岩手県で始める】
「政府のクマ被害対策が『関係省庁連絡会議』から『関係閣僚会議』に格上げされたことによって、各都道府県公安委員会に方針を強く指示できるようになった。自衛隊の超法規的措置としての防衛出動にしても、警察官がライフルでクマに対抗するための措置にしても、法整備やそれに対する議論は急務となってきます」(佐藤氏)
加えて、自然保護団体や動物愛護団体など、クマの駆除そのものに反対する世論が根強いことも見逃せない。クマの個体数の減少が取り沙汰された1990年代以降、「駆除中止」を求める動きが活発化。保護が優先された結果、近年はクマの個体数が急速に回復し、そのことが今日の人里への大量出没を招いたとの見方もある。
そうしたクマの駆除自体に反対する意見が存在するからこそ、「誰がクマを殺す役割を担うのか」という議論が先延ばしになってきた現実もある。ただ、自衛隊が“丸腰”で派遣されるような状況下では、悠長な議論はもはや許されないはずだ。
(前編から読む)
※週刊ポスト2025年11月21日号
