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【書評】『地球の歩き方 歴史時代シリーズ ハプスブルク帝国』 「帝国」が存在していた19世紀のヨーロッパを旅する

『地球の歩き方 歴史時代シリーズ ハプスブルク帝国』/地球の歩き方編集室 著・編

『地球の歩き方 歴史時代シリーズ ハプスブルク帝国』/地球の歩き方編集室 著・編

【書評】『地球の歩き方 歴史時代シリーズ ハプスブルク帝国』/地球の歩き方編集室 著・編/Gakken/2420円
【評者】辻田真佐憲(近現代史研究者)

 思わず膝を打った。発想の妙とはこのことか。変わり種ながら、ここであえて本書を紹介するゆえんである。

「地球の歩き方」は一九七九年に創刊された、定番の海外ガイドブック。旅先などでお世話になったひとも多いはずだ。コロナ禍で大きな打撃を受けたが、国内篇を展開したり、人気マンガとコラボしたり、カレー特集を刊行したりと、意外性のある企画を繰り出して苦境を乗り越えた。長年培われた信頼とブランドがあるからこそ、こうした挑戦が受けたのだろう。

 そして今回新たに登場したのが歴史時代シリーズ。最初の一冊がこのハプスブルク帝国だ。婚姻政策によって勢力を広げたハプスブルク家の領土は、現代のオーストリア、チェコ、ハンガリー、ドイツ、オランダ、スペインなど広範に及んでいた。

 この帝国を題材にすることで、人気のヨーロッパ各地を紹介できるという仕掛けになっている。なかでも注目すべきは、帝国が存続していた一九世紀にヨーロッパを旅すれば──という設定でつくられた解説だ。

 近代に入り鉄道が整備されると旅行は次第に大衆化し、駅前に大きなホテルが建てられるようになったこと。それにともない旅行ガイドが刊行されはじめたこと。現在のわれわれが当然視するものが、じつはこの時代に定着したことがよくわかる。

 また当時の旅行ガイドにも、財布を内ポケットに入れよ、ぼったくりに注意せよ、といった注意が記されていたという小話も興味深い。もちろん、現在と異なる貴族社会ならではの旅行にも目を配っている。自然に歴史へと誘う構成がみごとだ。

 好事家には周知の知識かもしれない。だが歴史はマニアだけのものではない。軽い関心を抱く層にも届けようとする、こうした試みも立派な歴史書ではないか。読者の裾野を広げようとする試みに、賛辞を送りたい。

※週刊ポスト2025年11月21日号

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