蝦夷鹿の生息数が多い網走、釧路、根室などの道東では、冬眠をせずにエゾシカを捕食しながら越冬するヒグマも出現している
冬山を下りた飢餓状態の熊が人里をうろつき回る
【民家襲撃事件】
発生年月日:1875年12月8日
発生場所:北海道虻田郡弁辺村(現・豊浦町)
犠牲者:死者1名、重傷者2名
熊種:ヒグマ
死者3人、重傷者2人の被害が出た札幌丘珠事件。これが起こる3年前、1875年12月8日には、洞爺湖やニセコ町で知られる虻田郡でも、ヒグマが民家に侵入する事件が発生している。
熊は、この家に仮住まいしていた1人を咬殺すると、同家の長女など2人に重傷を負わせたのちに銃殺されている。
この事件で注目すべきは発生した日時で、12月というと普通の熊は冬眠に入る時期である。それが民家にまで侵入して暴れたということは、冬を過ごすだけの栄養をまだ蓄えることができていなかったものと思われる。
熊は冬眠中に体重の30%から50%の脂肪を消耗するといわれ、入眠前にはその分を体内に蓄えておかなければならない。脂肪が足りないと体温が下がり切らず、眠りにつくことができない。それで巣穴の外に出て、いわゆる「穴持たず」になってしまう。穴持たずとは文字通り、寝床の穴を持たない熊をいう。
餌の少ない冬場に外をうろつく穴持たずは、基本的に飢餓状態であるため狂暴化する。さらには寝ていないために判断力が鈍った状態で、誰彼なしに襲いかかかってしまう危険がある。猟師の間では昔から「穴持たずを見つけたら、ためらわずに撃て」とも言われている。餌を探して民家を襲うこともたびたびあったようで、日本最悪の熊害となった三毛別羆事件も穴持たずの仕業だった。熊の出現が多い地域だと、冬場でも穴持たずを警戒して、熊の侵入を防ぐための電気柵や有刺鉄線の設置を怠らないという。
アーバン熊の増加に伴ない、今後は市街地でも穴持たずが現れることは十分にありえるだろう。
