女性も来られる空間に
この日、上映されたのは『うずいてほてる未亡人』『義母たちの乱行 レズって息子も…』『未亡人女将 じゅっぽり咥えて』の3作品。
「成人映画は3本上映する『プログラムピクチャー』が基本で、ウチは人妻なら人妻、緊縛なら緊縛と同じ路線の3本立てで上映する。好きな人は同じジャンルを存分に観られるので遠方からも来てもらえますから。最終上映の3作品は、『熟女』『人妻』というファンの多いジャンルを選びました」(谷口氏)
そう矜持を覗かせる谷口氏だが、父が切り盛りした1970年代、小学生時代には子供心に家業への抵抗感を抱いていた。
「学校で『お前んとこ、エッチな映画やってるな』とからかわれてね。自宅に入るときは、映画館の受付を横切るのを人に見られて恥ずかしかった。周囲の視線がトラウマになっていました」
20代で結婚を機に本格的に跡取りを目指し、映写室にこもって編集技術を学んだ。30代だった1990年代初頭に父が亡くなると、受付に立ってもぎりをするようになった。
当時、繁華街が四条河原町や京都駅前に移ったこともあって業績は下り坂。廃業も考えたが、踏みとどまらせたのは客との交流だった。
「最初はただ続けなきゃとの義務感だけでしたが、もぎりでお客さんと接するようになってから気持ちが変わった。お客さんに『憩いの場があってありがたい』と感謝され、やっていて良かったと思いました」
かつては恥ずかしかった家業が人々の癒やしとなることを知った若き館長。しかし、ポルノ映画の斜陽化やデジタル化で上映できる旧作が減るなど、ピンチは続く。
観光スポット・伏見稲荷大社まで続く商店街だった本町通も、この20年で店舗が次々と暖簾をおろした。本町館も、2003年には客席を約80席に減らすことになる。
数年前には、役所から「いかがわしいポスターを貼るのをやめてもらえませんか」という問い合わせも届いたという。
「住民から府にクレームがあったそうで、結局は乳首を隠して掲出することで落ち着きました。今はこういう声には抗えないし、ポルノ映画は時代に逆行するコンテンツなのかもしれない。でも、これもひとつの芸術だと私は思うし、こういう作品から性を学ぶことも必要だと信じています。だからこそ、場内を念入りに掃除し、ポルノ映画を純粋に楽しみに来てくれる人が快適な場所にしようと努めてきた。女性も安心して来られる場にしたかったんです」