沸き起こる拍手
最終日、本町館には約50人の客が訪れた。そのなかには、上映作『未亡人女将 じゅっぽり咥えて』の監督・荒木太郎氏(64)の姿もあった。
「もともと映画好きで映画に関わる仕事をしたかったのですが、一般映画はなかなか携わる機会がなく、何とか入れたのが成人映画でした。実際に成人映画に心を揺さぶられた経験もあったので、成人映画だからダメとは考えませんでした」
荒木監督は「女優の成長」を見守ることがポルノ映画の魅力だと語る。
「役者は最初から上手ではないけど、何本も起用すると段々上手になり、お客さんが『コイツうまくなったな』と褒めてくれる。観客も女優が成長する姿を糧に自らの夢や希望を育む。スタッフも成長するし、もちろん私もお客様に育てていただいた。これぞ『最後のプログラムピクチャー』と言われる成人映画の魅力でしょう」
演者やスタッフが励み、映像技術を駆使して完成した作品を上映し、方々から集まった客がそれぞれに楽しむ。そんなつながりの場を提供するポルノ映画館は、「文化」であると荒木監督は言う。
「そうした場がまた一つなくなるのは寂しくて惜しいこと。でも本町館が観客減少、デジタル化、製作本数の減少、街の過疎化、世間の温かくない目があるもののここまで続けてくれたことには感謝しかありません」
最終日、20時になって全上映が終了しても、最後まで残った20名ほどの客は席を立たなかった。
谷口氏が扉を開けて、「皆さま、今日はありがとうございました。閉館になります」と語ると、その場に大きな拍手が沸き起こった。
満員には程遠い客席だが、近年の本町館にとっては「有終の美」だったと言えるだろう。谷口氏が万感の思いで話す。
「ポルノ映画はひとつの大切な娯楽で、いつまでも必要なもの。最後の拍手には感極まって涙が出ました。長く頑張った甲斐がありました」
スクリーンが姿を消しても、人々の心に残る火照りが消えることはない。
※週刊ポスト2025年11月28日・12月5日号