古都に残された“大人の憩いの場”が75年の歴史に幕(イメージ)
スマートフォンでアダルト動画を簡単に楽しめる現代――かつて人々を熱狂させたポルノ映画館が、京都でまた一つひっそりと閉館した。
京都駅から15分ほど歩き、鴨川を渡った本町通に佇む老舗ポルノ映画専門館「京都本町館」。10月30日、75年の歴史に幕を閉じた。
別れを告げに訪れた50年来の常連客(85)が残念そうに語る。
「新作が流れる毎週金曜を待ちわびて、いつも奈良県から駆けつけていました。ネットでアダルト動画が氾濫してるけど、ポルノ映画が一番! ほんまに僕の青春でした」
閉館を「苦渋の決断」と語るのは、3代目館長の谷口彰氏(63)だ。
「最終的に閉館を決めたのは1か月ほど前。長年使用してきたプロジェクターが故障し、借金しても返せる見込みがなかった。『できるだけ続けて』という声もあり悩みましたが、ここが潮時と決断しました」
同館は1920(大正9)年に開業した映画常設館を前身とし、戦後の1950(昭和25)年、谷口氏の祖父・源三氏が再開させた。
転機は2代目館長の父・禎一氏の時代に訪れる。日活ロマンポルノの上映がスタートした1971年、成人映画専門の映画館に姿を変えた。
当時はアダルトビデオや家庭用ビデオデッキの普及前。定員400の座席は男性客たちで埋め尽くされた。滋賀県から通っていたという別の常連客(60)が振り返る。
「当時は料金1000円。入れ替え制じゃないから一度入れば午前中から夕方まで見続けられた。何より、居眠りをしても後ろめたさを感じないのが良かった。私にとって憩いの場でした。エロビデオが普及したあともスクリーンで観るポルノ映画は違った迫力や感慨があったんですけどね……」
3代目の谷口氏が継いだ1990年代以降は、映画産業の衰退、アダルトビデオの普及、客の高齢化などで苦戦を強いられるように。コロナ禍も持ちこたえたが、ついに時代の波が押し寄せた。
本町館の「最後の一日」に密着した。
